今村紫紅は、革新的な絵画様式を日本画に取り入れた日本の画家です。
古典的な日本画の絵画様式である大和絵に、琳派や南画、印象派など日本や海外の絵画様式を織り交ぜた先進的な作品を生み出しました。
日本美術の革命児「岡倉天心」にその将来を期待されながら、35歳の若さで亡くなった今村紫紅。
国や画派に囚われることなく、日本の近代美術を先導した若いリーダーは何を見て何を考えた人物だったのか。
その生きざまを見ていきましょう。
今村紫紅は、明治時代に活躍した日本画家です。
兄の厳しい指導を受け、大和絵の基礎を学びました。
すぐに日本美術協会展で入選を果たして頭角を現すと、安田靫彦らに認められ若手日本画家たちのリーダー格に成長していきます。
日本画の将来を考え、若手を引っ張った今村紫紅。芸術に対する情熱的な姿勢は、その作風にも表れています。
日本画の伝統的な構図や色彩にこだわらず、新しい絵画様式を次々と取り入れていきました。
今村紫紅の生い立ちと作品の特徴
今村紫紅は、1880年に神奈川県横浜市尾上町で生まれました。
本名は今村寿三郎。
提灯屋の三男でした。
1895年に、洋画家「山田馬介」が開いていた画塾で水彩画を学んだのが、絵画の世界に入ったきっかけでした。
山田馬介は、10代のころからアメリカ・ニューヨークで絵画を学んだ人物です。イギリスのロマン主義画家「ウィリアム・ターナー」の風景画に影響を受け、日本の風景を描いていました。
今村紫紅は、馬介に龍介の雅号を貰っています。
雅号とは、画家が制作で用いる名前です。
紫紅を名乗るようになるまで、龍介の号を使うことになります。
1897年、今村家の長男「今村興宗(本名は今村保之助)」とともに「松本楓湖」に師事します。
松本楓湖は幕末から明治、大正にかけて活躍した日本画家です。
師の歴史画を受け継ぐ一方、展示会に出品する作品には独自の手法を織り込んだ作風も見られます。
松本楓湖は、伝統的な大和絵の基礎を今村紫紅に教えた人物でした。また、兄の今村興宗も紫紅に指導を行います。
その指導方法は厳しいものでしたが、今村紫紅の絵画に対する実直な思いを築くきっかけになったのかもしれません。
兄の熱心な指導のおかげか、1898年に紫紅と名乗り始め、同年に日本美術協会展で初入選を果たします。1900年には、日本画家で紫紅会の発足者でもある「安田靫彦」に誘われて、紫紅会に入会しました。
今村紫紅と紫紅会の名が同じなのはまったくの偶然。今村紫紅が入会するにあたって会の名前を紅児会へと変更する運びとなりました。
1907年、日本美術院の本拠地があった茨城県五浦の研究所で、安田靫彦とともに岡倉天心の指導を受けます。今村紫紅は岡倉天心に琳派である「俵屋宗達」について言及しており、琳派への研究も熱心だったことが窺えます。琳派は、桃山時代後期に始まり、背景に金箔などを用いた豪奢な作風が特徴です。
美術品収集家の「原富太郎」邸にて、中国の古美術観賞を行って研究を始めたのは1911年から。
このころから、今村紫紅は南画を大和絵に取り入れるようになります。南画とは、中国の元や明の時代の絵画に影響を受けた画家から起こった画派です。
また、南画だけでなくフランスの印象派からも影響を受け、大和絵・琳派・南画・印象派など、時代や国を超えた画派を織り交ぜた作風が出来上がっていきました。
今村紫紅は常々と日本画の将来を語っており、その考えや手法を後進に強く伝えていました。
自身の作品への熱意も冷めやらぬまま35歳で短い生涯を終えるまで、新しい日本画を探求し続けた日本画家でした。
今村紫紅の代表作品
短い制作活動の中であっても、今村紫紅は多くの作品を生み出しました。特に有名なのが、『近江八景』と『熱国之巻』でしょう。
どちらも国の重要文化財に指定されています。
『近江八景』は、1912年に制作された風景画です。第6回文展で二等賞を受賞し、それまで描かれてきた典型的な近江八景とは異なる独自の解釈で表現されています。
印象派の点描法、南画の鮮やかな彩色方法を取り入れた作品です。現在は東京国立博物館に所蔵されています。
1914年に制作された『熱国之巻』は、より南画の影響が大きい作品です。
インドへ行った経験をもとに、伝統的な大和絵にはない大胆な構図と煌びやかな色彩で表現しています。全体に金粉を散りばめており、琳派の豪華さも取り入れた作品でもあります。
若くしてこの世を去った今村紫紅が残したもの
活動期間こそ短いものの、今村紫紅の残した功績は大きいものです。
保守的な日本の絵画界に、旋風を巻き起こした岡倉天心に影響を受けた今村紫紅。
大和絵の趣を残しながら、南画の大胆さや印象派のラフさ、琳派の豪華さを取り入れて独自の絵画様式を作り出しました。若手の画家への指導も熱心で、その意思は現代美術に大きな影響を与えた人物です。
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