子どもの頃、想像力の赴くまま自由にペンを走らせて、飽きることなく絵を描き連ねた経験がある方は多いのではないでしょうか。
単に落書きやいたずら書きといってしまえばそれまでですが、それこそが創作や芸術の原点ともいえる衝動の一つなのかもしれません。
その証ともいえる現代アートに、「グラフィティ」と呼ばれるジャンルがあります。
ニューヨークで街の壁などにスプレーやフェルトペンで描かれた、いたずら書きがその起源であり、いまや世界的に芸術の一分野として認められているスタイルです。
そんなグラフィティ・アートの第一人者として知られるのが「ミスター・ドゥードゥル」。
「Doodle(ドゥードゥル)」つまり「いたずら書き」を名乗る彼は、いったいどのようなアーティストなのでしょうか。
本記事ではミスター・ドゥードゥルのプロフィールや生い立ち、その作品と魅力をご紹介します。
プロフィール
1994年‐イギリス出身の現代アーティスト。
グラフィティ・アートをベースとした独自の世界観を表現し、フェルトペンなどによる特徴的な一筆描きの作風は「グラフィティ・スパゲティ」とも呼ばれています。
9歳の頃の落書きがきっかけに独自の作品群は世界的な人気を集め、MTVやAdidas、Cass Artなどが彼のクライアントになっています。
ミスター・ドゥードゥルは自身を「落書き屋」と呼び、ライブパフォーマンスも高い評価を受けています。
生い立ち
ミスター・ドゥードゥルは本名を「サム・コックス」といい、1994年にイギリスのケント州で生まれました。
その創作の原点は、9歳の頃にスケッチブックに夢中で落書きをしたこととされ、両親の寝室にまで絵を描いて叱られた思い出を語っています。
ミスター・ドゥードゥルとしてのスタイルが確立したのは15歳の頃で、友人たちは彼のキャラクターをTシャツなどに描いてもらうことを希望しました。
ほどなく街の壁画プロジェクトに次々と招待されるようになり、ミスター・ドゥードゥルの絵が多くの人の目にとまることとなります。
彼はブリストルの西イングランド大学に入学し、イラストレーションプログラムを専攻しました。
オリジナリティ溢れる一筆書きの作品に、当時の教授は「グラフィティ・スパゲティ」のニックネームを付けました。
描かれた対象にまるで絡みついていくかのような絵は「ミスター・ドゥードゥルのバグ」とも表現されます。
彼のアートが世界中に知れ渡ったのは2015年。ロンドンのオールドストリート駅のポップアップストアで作業している姿が、SNSで拡散されたことがきっかけです。
この時のライブ映像は実に3800万回以上も再生され、さらに熱い注目を集めるようになります。
彼にとって初の商業的個展は2016年、ロンドン・ホックストンギャラリーで開催された「Attention Seeker」です。
この企画がミスター・ドゥードゥルのアーティストとしての方向性を決めたといわれ、壁や柱、フローリングやダイニングセットに縦横無尽な作品を描きました。
日本国内でも「アートフェア東京2019」、代官山ヒルサイドフォーラムの個展「Doodle Tokyo」を実施。
先述したMTV・Adidas・Cass Artの他にもサムスンやサンリオ、FENDIやPUMAなどの企業ともコラボレーションしています。
ミスター・ドゥードゥル作品の特徴とその魅力
ミスター・ドゥードゥルのアートは制作する際に下書きを一切しないのが特徴です。
彼は自身のスタイルを「OCD (Obsessive Compulsive Drawing)と呼んでおり、これは邦訳すると「強迫観念的描画」という意味になります。
描く対象をびっしりと埋めつくすような線は「スパゲティ」と例えられるとおり、多くの場合一本につながっています。
ミスター・ドゥードゥルによると、考えながら描画していくよりリラックスして童心に帰り、純粋に描くことを楽しんで作品世界に没入していくそうです。
これはライブパフォーマンスにおいても同様で、観客の反応や会場の雰囲気が作品作りに影響するといいます。
彼は自身の作品について「シンプルに、見た人に楽しんでもらいたい」というコメントをしています。
細かく続いていく精緻な線は一見、迷路のようなものを思わせる楽しさを含んでいますが、こうしたライブ感とサービス精神の具現がミスター・ドゥードゥル作品の魅力といえるでしょう。
落書きの天才・ミスター・ドゥードゥル
インスピレーションを尊重するミスター・ドゥードゥルのことを、人は「落書きの天才」と呼んでいます。
アートとして昇華された「グラフィティ」はまだ歴史が新しいものの、ポップで楽しげに空間を埋めていく図柄は世界中で愛されています。
ミスター・ドゥードゥルはプロジェクトや作品ごとに画材を使い分けていますが、彼自身は太いマーカーやスプレーなどでダイナミックに描くことを好んでいます。
それらは決して特別なものではなく市販品も含まれており、日本の文具メーカーによるマーカーも愛用しているといいます。
こうした親近感も、ミスター・ドゥードゥルの魅力の一つといえるでしょう。
>
洋画・コンテンポラリー買取ページはこちら