日本の絵画のうち江戸時代に成立した浮世絵は庶民の生活や習俗をよく描写しており、歴史史料としての価値も評価されています。
また海外での人気も高く熱心なコレクターがいるなど、国際的によく認知されたジャンルの一つといえるでしょう。
浮世絵には市井の人々の暮らしの様子や歌舞伎役者などのブロマイド的なもの、美人画や景勝地の観光情報など多種多様なモチーフがあります。
そうした絵を描くクリエイターは人気を呼び、売れっ子絵師とも呼べる作家が数多く登場してきました。
そのうちの一人に「歌川広重」の名が挙げられます。
特に街道と宿駅の風景画で一世を風靡し、海外の画家にも多大な影響を与えたことでも知られています。
本記事ではそんな歌川広重のプロフィールや生い立ちを概観しつつ、作品とその魅力を ご紹介します。
歌川広重のプロフィール
1797年(寛政9年)‐1858年(安政5年)
18世紀末から19世紀半ばごろにかけて活躍した、江戸時代の浮世絵師。
歌川豊広の門下として絵を学び、当時の旅行ブームも追い風となって『東海道五十三次』などの風景画シリーズで大人気となりました。
版画だけではなく肉筆画も残っており、歴史画や戯画、美人画や春画なども手掛けて生涯での制作数は2万点にも及んだと考えられています。
歌川広重の生い立ち
歌川広重は1797年(寛政9年)、江戸幕府直轄の消防組織である定火消し(じょうびけし)・安藤源右衛門の子として生を受けました。
幼名は徳太郎、通称を鉄蔵や徳兵衛、本名を安藤重右衛門といいます。
13歳(数え年で表記。以下同)の頃に母が死去、次いで父が隠居したため火消同心の職を継ぎました。しかし15歳頃にかねてより志望していた絵の道を志し、歌川豊広の門下となって1812(文化9)年に「歌川広重」の名を授かります。
そして、1818(文政元)年に「一遊斎」の号で絵師としてデビューを果たしました。
広重は、火消同心を完全に辞めたわけではなく、1832(天保3)年までは家督を譲った幼少の次代の後見として代番を務めながらの画業でした。
当初は、役者絵・美人画を描いていましたが1828(文政11)年に師の豊広が没して、以降は風景画を中心に制作活動を行うようになります。
1833(天保4)年、江戸と京都をつなぐ街道である東海道の宿場を描いた『東海道五十三次』を発表。これにより広重の浮世絵師としての評価は確たるものとなりました。
以降も東海道や江戸の名所などのシリーズを手掛け、その他種々の媒体で絵を制作しています。
広重は1858(安政5)年、62歳で永眠。死因は当時猛威を振るっていたコレラだったと考えられています。
歌川広重の弟子
単に「歌川広重」というと初代を指す場合が多いですが、実は五代にわたる名跡となっています。
1826(文政9)年‐1869(明治2)年を生きた二代目広重、1842(天保13)年‐1894(明治27)年を生きた三代目広重はいずれも初代の門下でした。
初代の養女であったお辰は最初二代目と結婚しましたがのちに離縁、その後三代目と再婚しています。
広重の門人は上記の二代目・三代目の他に全部で16名が確認されており、そのうち「紫紅」の号を持つ人物は門下唯一の女性絵師でした。
歌川広重作品の特徴とその魅力
広重の作品は著名な『東海道五十三次』が象徴するように、風景の大胆な構図が 特徴といえます。
まるで空から見たかのように俯瞰的な図や、人々や天候の動きの一瞬をカメラで撮ったかのように捉えた絵など、情緒的かつ劇的な アングルがとても印象的です。
また、当時欧州方面から輸入された顔料である「紺青(こんじょう)」を木版に用い、その鮮やかな青色は海外で「ヒロシゲブルー」などと呼ばれ高く評価されています。
日本の伝統な青系色では藍色や紺色があり、これらもジャパンブルーの通称で知られる象徴的な色遣いです。
しかし、浮世絵が 持つ木版画の 性質上、紺青のように鮮烈な発色を示す色は インパクトがあったものと考えられます。
広重の作品は、ある意味で動的な表現にも特質があり、例えば東海道五十三次でいくつか見られる「雨」の表現がその代表格 でしょう。
これは、無数の細い線で降りしきる雨を描いたもので、突然の豪雨に慌てたようにも見える人や雨具を深くまとって旅路を急ぐ人々などが活写されています。
現代風にいうと漫画的とも例えられる技法ですが、こうした描写が臨場感を伴って見る者の心に迫るのが広重作品の大きな魅力です。
ゴッホやモネも魅了した浮世絵師、歌川広重
日本でも大人気の絵師だった広重ですが、その作品は海外にわたり西洋の画家たちにも大きなインパクトを与えました。
中でも有名なのが「ゴッホ」と「モネ」で、浮世絵にインスパイアされた日本趣味が作品に反映されています。
広重はその点で、近世日本における国際的なアーティストの一人といえるでしょう。
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