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竹・網代張り沈金箪笥(たけ・あじろばりちんきんたんす)は、木製箪笥の外装を竹細工の網代編みで覆い、さらに沈金(漆層に文様を彫り金粉を埋め込む技法)を加えた和家具です。軽快な竹の質感と漆黒に輝く金文様が調和し、実用家具でありながら工芸品としての価値を併せ持ちます。
網代編みは古代から籠や建具に用いられた技法で、江戸時代には茶室建具や箱類に応用されました。明治期の洋家具流入に伴い、和家具も装飾性を高める流れが生じ、竹細工や沈金漆が融和した箪笥が誕生。大正~昭和初期には、宮内省御用や東京近郊の工芸学校で制作例が見られ、都市の贅沢家具として受容されました。
骨組みは欅や桐の堅牢な木地で、重い衣類を支えつつ反りを防止。外装は真竹または淡竹の編み割り網代を木地に漆糊で湿布し、下地漆で固定後、黒漆を数度重ね塗り。沈金部分は最終の上塗り漆が半乾状態のうちに文様を彫り、金粉を埋め込んで余分を研ぎ出すことで、漆黒に浮かぶ金文様を作り出します。
網代張りは竹ヒゴを縦横に格子状に編み合わせる手法で、編目の密度や竹ヒゴ幅、竹の節位置により多彩な文様が生まれます。背景に透ける木地の色調を計算しつつ、通気性と強度を両立させる伝統技術が求められます。
沈金文様は、桜や竹、菊といった四季の草花図、唐草文や吉祥図(龍鳳凰、寿字)などが代表的。箪笥の引手周辺や扉縁、天板縁に配置し、視線の動線を考慮した意匠配置が美術的要点となります。
真作は竹編みの編み目に緩みがなく、漆層の研ぎ跡に自然なムラが見られる一方、後補品は網代の接着が均一すぎ、漆の厚みが平坦すぎる傾向にあります。沈金文様は彫り跡の先端に細かな金粉が残存し、研ぎ出し面の鏡面度合いが落とし込み具合と一致することが本物の証拠です。
初期大正期の作家物や御用作例は状態良好品で百万円以上が相場。大正末期~昭和初期の代表作家品は五十万~百万円前後、無銘の一般品は十万~数十万円程度です。網代の竹質、沈金文様の精緻さ、共箱や来歴書の有無で価格が大きく変動します。
竹は乾燥割れ、漆は湿度変化に弱いため、保管環境は温度20℃前後・湿度50%前後が理想。直射日光やエアコン直風を避け、埃は馬毛筆で優しく払いましょう。沈金部分は硬い布でこすらず、漆面を傷めないよう注意が必要です。
和室では床の間脇や書院に、洋室では照明を抑えたコーナーに設置すると、漆黒と金文様が映えます。引出しを少し引き出し、網代の透け感と沈金文様のコントラストを楽しむと、一層魅力が深まります。
竹・網代張り沈金箪笥は、竹細工と漆芸の融合が生み出した総合工芸品です。網代編みの技術、漆下地の研ぎ出し、沈金の造形美、来歴・保存状態を総合的に鑑定し、適切に取り扱うことで、その歴史的・美術的価値を次世代へと継承できます。
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