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乾漆器(かんしつき)は、木型の上に漆を塗り重ね、さらに麻布や紙布を漆で貼り付けて硬化させた工芸技法で作られる器物です。漆塗りと木工を融合し、軽量かつ強靭な質感を持つことから、仏像、飾り具、容器など多様な用途に用いられました。
乾漆技法はインドで起源をもち、中国では漢代(紀元前2世紀~後2世紀)に仏像制作に取り入れられました。唐・宋代に仏教芸術の隆盛とともに技術が成熟し、明・清期には装飾性の高い文房具や香器、器皿へと用途が拡大しました。
瓶式乾漆器は、牛乳瓶のような胴細頸広または肩丸肩張りのフォルムが多く、注ぎ口部や蓋が一体造形されるものもあります。漆層の表面は自然に経年で艶が深まり、紙布を覆う布目が透ける微細なテクスチャが特徴です。
まず木型を轆轤成形し、木地を漆で下塗り。次いで麻布・楮紙を貼り重ね、各層ごとに生漆を浸透させます。十分に硬化後、木型を抜き取り、内外を仕上げ漆で平滑に塗り詰め、文様彫刻や透かし彫りを施して完成します。
乾漆器には蓮華文、唐草文、雲龍文、飛天図など仏教モチーフが多用されます。瓶式では胴部に浮彫で蓮弁文を巡らせ、首部に細帯文を施した例が典型的。紋様の凹凸が陽影を生み、漆黒の地に柔らかな陰影を描きます。
真作判定では、漆層の経年ひび割れ(虎斑)や紙布の布目の浮き、木型抜き跡の自然さを観察します。後補品は布目が均一で漆層が厚すぎる傾向があり、接合部の木粉混漆や厚塗り塗膜が人工的に見える点で区別できます。
唐・宋代の仏具級乾漆瓶式は数百万円~千万円超の稀少品。明・清の文房・茶道具としての乾漆瓶式は数十万~百万円台が相場です。保存状態の良い完全品、来歴書付、仏像底部の収公印や箱書が揃うものは高値で取引されます。
乾漆器は漆面の乾燥割れと紙布の劣化に弱いため、直射日光・高湿度・極端な温度変化を避け、室温20℃前後・湿度50%前後の安定環境で保管します。埃は馬毛筆で優しく払い、化学薬品や水拭きは厳禁です。
瓶式乾漆器は陰影のコントラストを楽しむため、側面からの間接光による照明が効果的です。台座には黒壇や漆塗り台を用い、背景は無地の布地や和紙を敷くと、漆黒の艶と凹凸文様が一層引き立ちます。
乾漆器は中国古代の高度技術と仏教美術が融合した遺産であり、木・漆・布の複合素材文化を示す貴重品です。同形異紋や同時代の他素材器と比較蒐集することで、技術・意匠・使用変遷を学術的に楽しめるコレクターズアイテムです。
中国美術の乾漆器瓶式他は、複合素材を駆使した高度な工芸技法と仏教・文房文化が交錯する逸品です。素材・製法・文様・来歴・経年変化を総合的に鑑定し、適切に取り扱うことで、その歴史的・美術的価値を未来へ継承できます。
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