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黒漆螺鈿香合(くろうるしらでんこうごう)は、中国の漆工芸を代表する香合の一種で、艶やかな黒漆の地に貝殻や瑪瑙、象牙などを嵌め込む螺鈿技法が施された小箱です。茶道具や香道具として用いられるほか、その装飾性と高い技術力ゆえに骨董市場でも高値で取引される逸品です。
螺鈿は南宋時代に中国漆工芸で確立され、明・清期には工房制度が整備されて宮廷向けの豪華品が制作されました。日本にも室町時代末期から伝わり、茶席や御所調度として愛用されましたが、中国製の黒漆螺鈿香合は明清の宮廷工房の最高峰の技術を今に伝える資料として評価されます。
香合本体は楠や桐など軽量で狂いの少ない木地に数層の地粉漆を塗り重ね、黒漆で下地を整えます。螺鈿部はアワビ貝殻や夜光貝を薄く割いて漆面に埋め込み、漆の層を重ねて研ぎ出し、細かな柄を浮かび上がらせます。象嵌部には瑪瑙や象牙を嵌め込む場合もあります。
意匠には花鳥風月(牡丹・蝶・瑞鳥など)や吉祥紋(寿字・雲龍・宝相華)が多用され、螺鈿の光沢と黒漆の深い漆黒が調和して華麗なコントラストを生み出します。香合の曲線フォルムに沿って配された螺鈿文様は、平面装飾ながら立体感を感じさせる仕上がりです。
真作判定では、螺鈿の切断面がシャープであること、漆層の厚みと研ぎ出しの精度、木地の割れや接合部の仕舞いを観察します。また、香合裏底の刻印や箱書き・共箱、清朝工房の墨書銘など来歴証明が揃うことが重要です。後補品は螺鈿が厚すぎたり、漆面に刷毛跡が残ることが多い点に注意が必要です。
明清期宮廷作の黒漆螺鈿香合は状態と来歴により100万~500万円以上で取引されることがあります。無銘だが技術に優れた民間品でも数十万~百万円前後が相場。共箱・仕覆・来歴書付の完全品はさらに高値が期待できます。
漆器は直射日光や高温多湿を嫌い、乾燥による割れや剥落を招きます。展示はUVカットガラス越しの間接光が望ましく、保管は温度20℃前後・湿度50%前後の安定環境で行います。埃は柔らかな馬毛筆で優しく払い、化学薬品や湿った布で拭くのは厳禁です。
螺鈿の輝きは斜めからの光で最も美しく映えます。茶席では蓋を開けた状態で光を取り込み、蓋裏の螺鈿意匠と本体のつながりを堪能すると趣深い演出になります。また、回転台に載せて光の変化を楽しむのもおすすめです。
中国美術の黒漆螺鈿香合は、螺鈿技法と漆工芸の粋を集めた工芸品です。素材・技法・文様・来歴・保存状態を総合的に鑑定し、適切に取り扱うことで、その歴史的・美術的価値を次世代へと継承できる貴重な骨董品です。
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