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九谷焼高杯(くたにやきたかつき)は、石川県能美市を中心に江戸後期から続く九谷焼の技術を用い、脚付きの杯台(高杯)として制作された陶磁器です。高杯は、本来は酒席や茶席で杯や小盃を載せる台ですが、九谷焼では色絵の華やかさと磁器の白さを活かし、工芸美術品としても鑑賞に耐える逸品が多数生まれました。
九谷焼は江戸時代中期(17世紀後半)に加賀藩によって奨励された陶磁器産地で、当初は赤絵・青手・黄手の三彩手法が特色でした。高杯形陶磁の制作は文久~明治期に盛んとなり、文人趣味の酒宴道具や、茶事の副用品として取り入れられました。
九谷高杯は、高台の脚部と、上部の盃受けを一体に成形する「一体高杯」が一般的です。高台は円柱状や八角形など多様で、盃受け部は浅碗形に縁を立ち上げ、口縁をわずかに反らせることで安定感と軽やかさを両立させています。
胎土には硬質な上絵付用磁器土を使用し、乾燥・素焼き後に石灰釉あるいは無釉で焼成。磁胎の白さと緻密な土肌が、上絵付の色絵を鮮やかに引き立てます。焼成温度は約1,250℃前後で、強度と磁性を確保しています。
九谷高杯には、赤絵、青手、黄手、緑手、紫手など五彩の色絵技法が用いられます。代表的な文様には、花鳥風月(牡丹・桜・鶴・鳳凰)、吉祥紋(七宝、青海波、唐草)、人物図、縁起図などがあり、彩色の濃淡や金彩のあしらいで華やかに仕上げられます。
江戸末期から明治期に活躍した九谷宗家(大聖寺九谷)、江沼九谷(能美古九谷)、中村九谷などが、高杯制作に優れた作例を残します。近代以降では、古九谷復興運動を牽引した河合秋雄や八谷宗家当主が独創的な高杯を制作し、市場でも高い評価を得ています。
真作判定では、磁胎の胎土色、素地断面の焼成色、釉薬下の土肌模様を観察します。上絵付は顔料の定着度、金彩の粒度や重ね塗りの跡、筆跡の勢いが自然かを確認。高杯底裏のほぞ合わせの仕上げ、窯印や銘款、共箱や鑑定書の来歴証明も重要な判断材料です。
古九谷期の高杯は希少性から数十万~数百万円、明治期の大聖寺九谷高杯は状態によって数十万前後が相場。近代作家物や豪華金彩絵付の逸品は数十万~百万円超、共箱・仕覆・来歴完備の完全品は更に高評価を受けます。
磁器は衝撃で欠けやすいため、取り扱いは慎重に。洗浄は中性洗剤を薄めた温湯で手洗いし、研磨剤や硬いスポンジは避けます。保管は緩衝材で個別に包み、直射日光や急激な温湿度変化を避け、湿度50%前後・温度20℃前後の安定環境を保ってください。
高杯は形状の美しさと絵画的な色絵を両方楽しめるため、専用の透過照明付きケースや浮遊感を演出する台座で展示すると効果的です。花器として一輪挿しに用いるなど、日常のインテリアにも取り入れやすい工芸品です。
九谷焼高杯は、九谷五彩の絢爛さと磁器の緻密さを両立させた稀少な工芸品です。形状・胎土・釉薬・上絵付技法・金彩・窯印・来歴・保存状態を総合的に鑑定し、適切に取り扱うことで、その歴史的・美術的価値を末長く次世代へ継承できます。
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