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蒔絵天目台「かんざし櫛」は、天目茶碗の置台として用いられる小型の台に、簪(かんざし)や櫛を意匠化した装飾を蒔絵で施した工芸品です。茶席の道具組みに華やかさを添える脇役として、また茶道具一式の調和を高める名脇役として、明治期以降に作家物として制作され、市場では骨董品として珍重されています。
天目台は元来、中国宋・元の時代に茶席で天目茶碗を安定させるために用いられた板台が起源。日本には室町期に伝来し、江戸期には簡素な木地台が用いられる一方、明治以降の茶道復興運動で、装飾性を重視した蒔絵天目台が現れました。特に茶会の飾り台として、また来客への見映えを重視する茶席道具として作家の逸品が制作されました。
台の素地には桐、栓、欅など軽量かつ狂いの少ない木材が好まれます。製作工程では地粉漆を幾層にも塗り重ね研ぎ出して平滑な下地を作り、その後黒漆で塗り固めて下地層を安定させます。漆層の厚みと研ぎ跡が、その後の蒔絵の定着性と表面光沢を左右します。
本作は、「かんざし櫛」をモチーフに、平蒔絵・高蒔絵・研出蒔絵を組み合わせています。簪の金具部分は高蒔絵で立体感を出し、櫛歯の細かな曲線は研ぎ出し技法で繊細に表現。金粉・銀粉の粒度を使い分けることで、金具の艶やかさと櫛地の落ち着いた光沢を対比させ、茶席に優雅な印象を与えます。
作家物には台裏や底面に落款印や作家銘が入ることが多く、作品によっては共箱に作者署名、制作年、使用漆・金粉の産地などが記されます。明治末期〜昭和初期に活躍した蒔絵師、例えば初代下坂彌太郎や西村重臣らの作品には、技法の巧みさと意匠の遊び心が感じられます。
真作鑑定では、蒔絵面の金粉の定着状況と粒度、研ぎ出し跡の鋭さ、漆地の沈み込み具合を確認。高蒔絵の盛り上がりと平蒔絵の平滑度が自然であるか、金粉が剥落せず均一に残存しているかを観察します。台裏の落款印は、筆跡や印泥の色合い、箱書と一致するかを重要視します。
無銘の制作工房品は数万円〜数十万円が相場。著名蒔絵師作の小型天目台「かんざし櫛」は、状態良好で共箱付の場合、50万円〜150万円程度で取引されることがあります。特に箱書や書付が作家直筆で揃う完全品は、さらに高値が期待できます。
漆器は乾燥割れや金粉剥落を避けるため、直射日光や極端な温湿度変化を避け、温度20℃前後・湿度50〜60%の安定環境で保管します。使用後は乾いた柔らかな布で埃を払い、化学薬品や湿った布で拭くのは厳禁です。展示時もガラスケース内や間接光環境が望まれます。
茶会で天目台を用いる際は、天目茶碗の釉調と蒔絵意匠の対比を楽しむことが重要です。黒釉の深い光沢に金蒔絵が柔らかく映え、簪や櫛の意匠が茶席に遊び心を添えます。客が茶碗を置く瞬間、天目台の蒔絵がさりげなく視線を誘い、会話の糸口となります。
蒔絵天目台「かんざし櫛」は、天目茶碗を引き立てる脇役でありながら、蒔絵技法と作家の意匠性が結晶した工芸品です。素材・技法・意匠・落款・来歴・保存状態を総合的に鑑定し、適切に扱うことで、その歴史的・美術的価値を末長く次世代へと継承できます。
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