Menu
矢筒(やづつ)は、武士や弓術家が携行用に矢を収納する筒状の道具で、素材は竹製・木製・革製など多様です。矢(や)は、弓術の射手が放つ弾丸で、木軸に羽根(翎)と鏃(やじり)を取り付けた構成が基本。矢筒と矢は武具であると同時に工芸品的要素を持ち、江戸時代には拵えの美しさと製作技術の高さが愛好されました。
矢筒は平安期の狩猟用弓具に端を発し、鎌倉・南北朝期には武士の戦装束に必須の携行具となりました。江戸期の礼式弓術(流鏑馬・笠懸・的前)では、儀礼用の装飾矢筒・矢が整えられ、拝領品・贈答品としても珍重されました。民間の的当て遊戯用にも簡略形が普及しました。
矢筒本体は竹の節間を利用して一節刻で作る「一節竹筒」、複数節を継いだ木製筒が主流。外装には鹿革・猪革の張り革を施し、漆塗りや金箔、蒔絵で家紋や吉祥文を描く装飾が見られます。口輪(くちわ)・尻輪(しりわ)金具には赤銅色絵・金鍍金を用い、紐通し金具(振出金具)も精緻な意匠工芸品です。
矢軸は杉・檜・竹などの軽軸木を矧ぎ合わせ、節を切り落として軽量・直線性を確保。矢羽根は鳶尾・鴨羽など天然羽根が主で、二枚羽根・三枚羽根があり、形状と角度で飛行安定性が調整されます。鏃は鉄鏃・錫鍍金鏃・金銅鏃があり、先端形状(平鏃・目鏃・三角鏃など)で用途が異なります。
真作判定では、竹筒の節間長さ、木地の木理、漆層の厚み・研ぎ出し痕、蒔絵金箔の粒度、赤銅金具の鍍金剥落具合を観察。矢軸は矧ぎ目の自然さ、羽根の彫じ(根元の縛り糸)や研磨跡、鏃裏の鋳型跡・刻印を確認します。後補品は漆層が薄く、金具や羽根の取り付けが機械的になる点に注意。
一節竹製矢筒は無銘品で数十万~百万円前後、有銘作家や拝領蔵品は百万円~数百万円。装飾矢筒一対(矢数本付)は二百万円~千万円規模の高額品もあります。矢単品は製作技術と鏃種類で数万円~数十万円、特注鏃や古鏃は百万円級となることがあります。
竹や木地は乾燥による割れ、湿気によるカビ・虫害に弱いため、温度20℃前後・湿度50%前後で管理。漆装表面は直射日光を避け、埃は柔らかな筆で払い、化学薬品や硬い布で拭くのは厳禁。羽根は湿気で曲がりやすく、専用箱や巻紙で保護してください。
矢筒は縦置き台や壁掛け用金具で展示し、口輪の金具意匠を正面にすると美しい。矢は数本を束ねて巻締めし、壁掛けやガラスケースで束ねて飾ると、羽根の色模様が際立ちます。照明は間接光で漆と羽根の質感を優しく引き立てると良いでしょう。
矢筒・矢は武具としての機能美と工芸技術が融合した逸品です。素材・構造・装飾・真贋要素・来歴・保存状態を総合的に鑑定し、適切に管理・展示することで、その歴史的・美術的価値を次世代へと継承できます。
鑑定のご相談、
お待ちしております!
多くの士業関係の方からも御依頼を頂いております。お気軽にご相談ください。