Menu
ビスクドール「ジュモー」は、19世紀フランスの人形工房ガストン&ファンジュ・ジュモー社(Gaultier & Fils, Jumeau)が製作した、最高級のビスク(素焼き磁器)製ドールです。1870年代から1890年代にかけて全盛を迎え、現代では世界中のコレクターが最も憧れるアンティークドールのひとつとして評価されています。
ジュモー家は1840年代にパリで人形製造を始め、1870年代に社名を「ジュモー社」と改称。精緻な素描による繊細な表情、髪の生え際やまぶた、口元のグラデーションを生む手描きのペイント技法、布張り胴体との組み合わせで「生きているかのような肌感」を実現しました。当時最新の人形ファッションを取り入れた洋服や靴、小道具もジュモーの魅力です。
ビスクとは、釉薬をかけずに素焼きした磁器のことで、半光沢の陶肌が「肌理(きめ)の細かさ」と自然な色調を生み出します。ジュモーの頭部は高温焼成後、薄くピンクや茶の色付けを手描きし、口紅やまゆ、まつ毛も繊細に彩色。髪はモヘアや人毛を一つずつ植え付け、アイはグラスアイまたはペイントアイから選択可能で、まなざしの深みを演出します。
ジュモーの代表モデルには、ベベ・ジュモー(Bébé Jumeau)、アベック(A Bécé)、ベベ・アンジェ(Bébé Ange)などがあり、サイズは30~65cm程度まで多様。ソバージュヘア、カールヘア、アップスタイルなどヘアスタイルや眼差し(閉眼・開眼)のバリエーションが豊富で、洋服も当時の服飾資料を忠実に再現したシルクやレース製のドレスが付属します。
真作鑑定では、頭部底面の刻印「JUMEAU」「S.F.B.J.」やモデル番号の有無がまず重要。ビスクの焼成ムラや髪の植え付け痕、ペイントの色調・筆跡の自然さを観察します。首ジョイントや胴体の布張りとリプロダクション品(復刻品)との違いを、金具やリボン留め具、ラベルの印刷品質で見分けます。
ビスクドールは陶肌が極めて繊細で、割れや欠け、ヘアラインクラック(極微細ひび)が生じやすい性質があります。展示・保管は直射日光や高温多湿を避け、湿度40~60%・温度20℃前後の安定環境下で行います。埃は柔らかい刷毛で払う程度にし、髪は馬毛ブラシで優しく整えます。ヘッドキャップやスタンドを使い、頭部や関節の負担を軽減してください。修復は専門の人形修復士に委ね、接着剤や補彩は当時の材質に近いものを用いるのが望ましいです。
ビスクドール「ジュモー」は状態・モデル・サイズ・付属品・来歴により価格が大きく変動します。ベベ・ジュモーの小型30cm級は状態良好で50万~100万円前後、中型50cm級は150万~300万円、大型60cm級や珍しいモデルは500万~1000万円以上で取引されることがあります。オリジナルの衣装や箱付き、著名コレクターの来歴証明がある個体はさらにプレミア価格となります。
ジュモービスクは、単なる玩具ではなく19世紀後半の技術と美意識、当時の子ども像の理想を凝縮した工芸品です。モデルや衣装を揃えて比較することで、当時のファッション史や技術史を学べる学術的価値も高いです。美しく保存されたジュモーは、展示用オブジェとしてもインテリアに品格を添え、コレクターのみならず美術館の所蔵品としても人気があります。
ビスクドール「ジュモー」は、ガストン&ファンジュ・ジュモー社の卓越したビスク技術と19世紀ファッション文化が結晶した希少な骨董品です。刻印・モデル番号・ビスク肌の質感・彩色・衣装・付属品を総合的に鑑定し、適切な環境で保存・手入れを行うことで、その歴史的・芸術的価値を次世代へと伝えていくことができます。
鑑定のご相談、
お待ちしております!
多くの士業関係の方からも御依頼を頂いております。お気軽にご相談ください。