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「金時」は、現代を代表する木彫作家・平田陽光(ひらた ようこう)が2010年代に制作した屋外神話彫刻シリーズの一作で、頑強な体躯と勇猛な表情に定評があります。題名は日本の伝説的金太郎(坂田金時)に由来し、自然と人間の力強い結びつきを表現した作品です。
平田陽光(1958–)は京都造形芸術大学で彫刻を学び、世界各地の神話や民話をモチーフにした木彫・青銅彫刻で知られます。素材に生命感を宿らせる「現代神話彫刻」を掲げ、伝統技法とモダンな造形美を融合させることを信条としています。
「金時」は、東日本大震災以後の復興祈念プロジェクトとして発注され、被災地の山間地に設置されました。平田は金太郎伝説を通して「人と自然が支え合う力」を象徴的に表現し、「困難を乗り越える勇気と連帯」を伝えようとしました。
主材は北海道産トド松を用い、樹齢200年以上の古材を荒木取りから仕上げまで一貫して手作業で彫り上げています。木地彫りの後、天然漆を下地に、鉋(かんな)と彫刻刀で肌を整え、最後に拭漆(しっしつ)仕上げを施して深い艶を出しています。
金太郎の象徴的な短槍を握る右手は、荒々しい鑿跡を残しつつも筋肉の隆起を緻密に描写。左肩に背負った大樽は自然と共に働く力の象徴で、丸みを帯びたバランスが躍動感を生み出します。顔の表情は怒りとも笑みとも取れる微妙な表現で、観る者に内面の強さを問いかけます。
作品裏側の台座に「陽光造」「2013」と平田自身の刻印があり、設置地を示す札も附属します。初出展は2014年の「日本現代彫刻展」で金賞受賞を果たし、以後アジア各地のパブリックアートフェスティバルに招聘されています。
真作確認には、平田特有の漆下地の黒味、拭漆仕上げの艶の深さ、台座裏の刻印の刀跡の鋭さをチェック。模造品は漆層が薄く、木地の乾燥割れが真作よりも均一でなく、署名刻印のエッジが鈍い傾向にあります。
野外設置作品はパブリックアートとしての価値が主となるため売買市場にはほとんど出ませんが、同シリーズの室内小型レプリカ(限定100体)は、未使用のオリジナルボックス付で2025年現在、一体あたり約200万円前後で取引されています。
天然漆仕上げの木彫は直射日光・極端な乾燥・高温多湿を嫌います。設置・展示時は美術館クラスの温湿度管理(20℃前後、湿度50~60%)が理想的で、埃は柔らかな馬毛筆で払う程度に留めます。
平田陽光「金時」は、伝承と現代感覚を融合させた作品として、彫刻コレクションの中でも異彩を放ちます。雄大なスケールと細部の緻密さを併せ持ち、観る者を時代と国境を越えた神話世界へと誘うアートピースとして高く評価されています。
「金時」は、平田陽光の木彫技術と現代的神話解釈が結実した稀少な現代工芸骨董品です。素材・技法・款識を総合的に鑑定し、適切な環境で保存管理することで、その造形美と文化的価値を未来へ継承できます。
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