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セーヴル(Sèvres)磁器は、フランス王立セーヴル窯(Manufacture nationale de Sèvres)で18世紀中頃から製造された高級磁器であり、その優雅な装飾と技術革新で欧州各国の王侯貴族に愛されました。特に薄手のソフトペースト磁器から硬質磁器への移行期に制作された皿は、「セーヴルプレート」として美術骨董市場で高い評価を受けています。
セーヴルの皿は、円形・八角形・楕円形など多彩な形状があり、中心部や縁に絵画的な装飾が施されます。典型的な意匠にはロココの貝殻文様、古典主義風のガーランド、神話を題材とした小画面(タブロー)が挙げられます。彩色にはコバルトブルーの「セーヴルブルー」、ローズマダレーヌ、シャルトルーズグリーンなど独自調合顔料が用いられ、金彩で縁取りをすることで高級感を演出します。
当初はソフトペースト磁器であったが、1768年に硬質磁器の製造法を確立。高温焼成によって生まれる薄手の白地は、透明感と緻密さを併せ持ちます。絵付けは下絵付け(ブルー単色)→本焼成→上絵付け(多色顔料+金彩)→再焼成の多段階工程を経るため、窯内の位置によって色調や金彩の発色に微細な差異(窯変)が生じ、個体ごとの味わいとなります。
皿の裏底には窯印として王冠とL字紋(ルイ15世、ルイ16世など在位期間で変遷)が刻印または青色転写で示されます。加えて、絵付師を示すイニシャルや数字が手描きで入ることがあります。本物は窯印の輪郭が柔らかく、厚みのある釉薬層を透かしてうっすら見えるのが特徴です。
セーヴル皿は食器用途よりも装飾用としての需要が高く、額縁に収めた「プレートボード」や専用の皿立てに飾られました。額装には木製フレームに金箔を施した豪華なものが用いられ、皿の中心画面とフレームの装飾が視覚的に調和するよう、フレーム内側に緑布やベルベットの裏打ちを行うことが一般的です。
鑑定では、まず磁器地の白さと釉の透明度を確認します。硬質磁器は薄くても強靭で、縁を拡大しても素地に気泡や粗粒が見えないのが本物の証です。絵付けは絵具層の盛り上がりや金彩のひび割れ(クラック)も自然な経年変化として評価されます。
窯印は時代ごとに形状が異なるため、ルイ15世期のSSモノグラムに王冠を重ねたタイプ、ルイ16世期の二本のL字などを参考に年代判定を行います。転写印刷ではエッジがややかすれ、手描き刻印は凹凸の輪郭に手仕事感が残ります。
18世紀中期のルイ15世期製セーヴル皿は、市場で1枚あたり数十万〜百万円を超える価格帯で取引されることがあります。特に神話画や肖像画を中心に描いたタブロー付きの希少図柄、また完全な額装オリジナルを保つセットはプレミアム価格となります。
磁器は急激な温湿度変化による貫入や金彩の剥落を防ぐため、温度20℃前後・湿度50%前後の安定環境で展示。日光や強い人工光は色彩の褪色を招くため、UVカットガラス越しや間接照明での展示を推奨します。額装フレームは定期的に緩みや金箔剥がれを点検してください。
セーヴル皿とその額装は、18世紀欧州磁器美術の頂点を示す逸品です。製造技法・窯印・窯変の知識と、額装スタイルの歴史的背景を併せて理解することで、骨董品としての真贋と価値を正確に見極めることができます。
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