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楽吉左衛門 覚入(らく きちざえもん かくにゅう)は、京都・楽家16代当主として伝統を継承しつつ、自在な発想で現代茶陶を切り拓いた陶芸家です。本作「香炉薬茶碗」は、香炉と茶碗を一体化させた珍しい形式で、茶席において香と茶を同時に楽しむ趣向を盛り込んでいます。
覚入は、楽家の「手の内」に根ざした轆轤挽き技術を基本に、形の自由度を追求。内面と外面の表情差を生かし、土味(どみ)と釉調のコントラストで器の「呼吸感」を表現することを旨とします。本作でも、自ら調合した黒釉と鉄釉を重ね掛けすることで、深い陰影と緋色の窯変を実現しました。
一般的な茶碗形状の内側に抹茶を挽物、外側の縁外部には小型の香立てを設け、香木を焚く枯山水の香炉として機能。茶を点てると同時に緩やかな香りが広がり、五感を調和させる新たな茶席体験を提案します。縁端の窪みや底部の通気孔も、使い勝手と美観を両立させる工夫です。
共箱は堅牢な桐箱で、内蓋裏に覚入自筆の銘「香炉薬茶碗 覚入作」、外蓋上に表千家家元・即中斎の墨書「御茶道具 香炉薬茶碗 即中斎書附」と落款が施されています。家元書付は来歴保証と格付けの証であり、茶道具としての実用性に加え骨董的価値を大きく高めます。
胴部は轆轤挽きによる滑らかな曲線を描き、見込み部には指跡を残す手捻りの温かみが同居。黒釉はマットな質感を基調に、部分的に鉄釉を流し掛け、還元焼成で現れる緋色の斑(あられ窯変)がアクセントに。窯内の炎の揺らぎが一点ごとに異なる表情を生みます。
真作確認には、覚入銘の筆勢や印章の形状、即中斎書付の筆跡と花押、共箱の木目や墨染みの風合いを総合的に判断。器本体では、釉面の自然な窯変模様、貫入の入り方、高台裏の轆轤跡と素地の土味を観察します。人工的な染色や表層コーティングは鑑別を難しくする要因です。
即中斎書付の覚入作香炉薬茶碗は、茶道具専門オークションや骨董店でおおむね50万〜200万円前後で取引されることが多く、特に初期作品や稀少窯変品はさらに高値が付きます。また、共箱・仕覆・茶杓など関連道具が揃った「全装備品」はプレミアム価格となる傾向があります。
香炉薬茶碗は形式の希少性と機能美が魅力。覚入の造形哲学と即中斎家元の権威が結実した逸品として、茶道具コレクターのみならず、現代陶芸愛好家からも高い注目を集めています。香と茶を一器で楽しむ斬新な提案は、茶の湯の伝統を未来につなぐ意義ある試みといえます。
釉薬面は貫入に汚れが入りやすい特性があるため、使用後は速やかに湯ですすぎ、柔らかな布で水気を拭き取ります。直射日光や急激な温湿度変化を避け、共箱に仕舞う前に十分に乾燥させてから収納してください。共箱内部には防湿剤を入れ、定期的な点検を行うと良いでしょう。
楽吉左衛門 覚入作 香炉薬茶碗 即中斎書付は、伝統と革新、作家性と家元権威が融合した稀少な茶道具です。作陶技法、釉変の美しさ、共箱・書付の完全性を総合的に評価することで、その価値を正しく見極められます。購入や鑑定の際には、信頼できる専門家の意見を仰ぎ、適切な保存管理を行うことをおすすめします。
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