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本品は、鋳金工芸作家で人間国宝の香取正彦(1920–1995)が手掛けた「経筒(きょうづつ)」です。経筒は仏教経典を納める筒型の容器で、奈良・平安以来の宗教工芸品として寺院や個人の信仰の場において重要視されてきました。香取正彦の経筒は、古代の伝統技法を現代に復興させつつ、緻密な彫金・透かし彫りで新たな表現を追求した作品として評価されています。
香取正彦は戦後の金工界を牽引した鋳金工芸家で、1968年に重要無形文化財「鋳金」の保持者に認定されました。ロストワックス鋳造法を基礎に置き、砂型鋳造と併用する独自手法を確立。素材の銅・真鍮・銀を調合し、下地の彫金と鎚起(つきおこし)による立体造形を組み合わせることで、線状文様から高蒔絵のような盛り上げ装飾まで幅広い表現を可能にしました。
本作経筒は身部を三つの帯文で区画し、中央帯に蓮唐草文が透かし彫りで配されます。上帯は八花紋、下帯は波涛文様が鎚打ちで表現され、上下端には細い卍繋ぎが巡ります。蓋は円形の宝珠形摘み付きで、宝珠には銀象嵌で蓮華座を描出。底部は円孔を配し、内面には朱漆塗が施され、経典を守る安置空間としての神聖性を高めています。
人間国宝香取正彦作の経筒は、作家作品として高い希少性があり、保存良好な共箱付品で800万~1,200万円が相場となります。小規模な擦れや経年景色が認められる場合は500万~800万円、共箱欠損や補修跡があるものは300万~500万円程度で取引される例があります。
銅合金製品は湿度変動と硫化ガスに弱く、室温20℃前後・湿度50~60%を維持。表面の緑青は時代景色として評価できますが、急激な腐食は避けるため定期的に乾拭きを行い、化学薬品は用いず柔らかな布で埃を払います。裏面の朱漆内面は乾燥割れ防止のため直射日光を避け、共箱に納めて保管すると長期保存に適します。
香取正彦作「経筒」は、古代の仏教工芸品としての格式と、現代鋳金技法の精華が融合した逸品です。作家銘・鋳肌・彫金・象嵌・保存状態・来歴資料の六要素が揃うことで、真の骨董的価値を発揮し、仏教美術コレクターや工芸愛好家から今後も高い評価を受け続けることでしょう。
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