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木彫り天部像は、仏教の守護神として寺院や仏壇に祀られる天部(てんぶ)、たとえば毘沙門天・帝釈天・四天王などを題材とする彫刻作品です。木材を素材に刻み出した像は、彩色や截金(きりかね)を施したり、素地仕上げで木目の美しさを活かしたりと、作風や技法の多様性が魅力です。骨董品としては、制作年代・作者・材質・造形・彩色の状態などが価値を左右します。
天部像の彫刻が日本に伝わったのは奈良時代以降で、仏像彫刻とともに宮廷や寺院で尊崇されました。平安期には一木彫の技術が発達し、鎌倉期には運慶・快慶らの写実的作例が数多く制作。室町・桃山期には禅宗寺院を中心に禅僧作や地方仏師による写しが普及し、江戸期には民間向けの小型像も多数流通しました。
主材には北山杉・欅(けやき)・榧(かや)・檜(ひのき)などが用いられます。一木彫・寄木造いずれもあるものの、頭部や手足を別材で後補して完成する「後補」技法が一般的。下地には漆箔や膠下地を施し、彩色や截金で金泥を重ねることで荘厳な装飾が施されます。経年で彩色が剥落し、木地が露出した景色も骨董的味わいとなります。
像容は、持物(戟・宝塔・宝珠など)や印相(印契)で種別が明示され、甲冑や装身具、施無畏印・与願印など仏教的象徴を表現。衣文線の深さ、筋彫りの緻密さ、顔立ちの表現力、ドレープの量感が造形の完成度を示し、流派や時代様式を判定する手掛かりとなります。
天台宗・真言宗・浄土宗など寺院ごとに祀る天部像の形式が異なり、礼拝用の本尊脇侍としての大型像から、家庭用ミニ仏壇に納める小型像まで多彩。護摩壇や法要の際の法具として、また室内装飾としても用いられ、図像的・宗教的な意義が重視されてきました。
平安・鎌倉期の古手真作級は時価で数百万円から千万円超。桃山期の地方彫刻や写しの良品は100万~300万円、江戸期の中小型像は30万~100万円が相場です。彩色剥落の少ない極上品や来歴明確な寺伝来品は価格がさらに上乗せされます。
木彫仏像は急激な温湿度変化に弱く、室温20℃前後・湿度50~60%を維持。直射日光やエアコン風を避け、虫害防止に定期的な点検が必要です。埃は柔らかな刷毛で軽く払い、漆負地や彩色層を傷つけないよう慎重に扱います。専門家による裏打ち替えや彩色補修も検討してください。
入手時には共箱・共布、胎内札などの有無を確認し、旧蔵寺院の記録や収蔵証明書を取得すると良好。修理履歴や展覧会出品歴がわかるカタログなどが付属すれば骨董的価値が飛躍的に高まります。
木彫り天部像は、材質・制作技法・造形・彩色・来歴の五要素が揃うことで本来の骨董的価値を発揮します。宗教的意義と芸術的完成度を兼ね備え、仏教美術コレクターや寺院研究家から今後も高い評価を受け続ける逸品と言えるでしょう。
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