Menu
平野遼(ひらの りょう、1916–1997)の代表作「陸橋」は、都心の雑然とした風景を抒情的に切り取った洋画作品です。鉄筋コンクリートの陸橋をモチーフに、透き通るような空と影のコントラストを際立たせる画面構成は、都市化の波間に漂う孤独感と人間存在の儚さを象徴します。骨董品としては制作時期、画面状態、署名・年記、額装仕様、来歴が評価の主軸となります。
平野遼は東京美術学校(現・東京芸術大学)で洋画を学び、戦後にヨーロッパを巡る旅を通して光と影の表現を深めました。帰国後はモダニズムの文脈から独自の感性を発揮し、都市風景や路上スケッチをベースにした写実的かつ詩的な作品を多数発表。「陸橋」は1960年代後半の作品群に連なる一作であり、短いタッチと淡い色彩で、日常の中の非日常を浮かび上がらせます。
本作の制作は1968年頃とされ、画面右下に「平野遼 68」の墨書が認められます。署名と年記の鮮明さは真作判定の要となり、署名の筆跡・使用絵具の色調と年代との整合性が重要です。また、裏面のキャンバス裏打ちや下地材の種類も制作時期を裏付ける手掛かりとなります。
「陸橋」は、中景に水平に伸びる陸橋を据え、下層に通行人や自転車を省略的に描くことで遠近と静謐さを強調。上層は雲間から漏れる陽光が橋桁の影を落とし、空のグラデーションが羽衣のように広がります。使用画材は油彩で、下地にジェッソを薄く引いた上に淡いパステル調の絵具を多層に重ね、ブラシワークの風合いを残しつつも透明感を高めています。
オリジナルの木製額はシンプルなグレイン仕上げで、マットは生成りの無酸マット紙を用いています。額縁の裏に保管用和紙が貼られ、展覧会出品用のラベルが残存。額装のオリジナル性は作品の来歴価値を高める要素であり、特に裏板の固定金具やガラスの種類(UVカットガラスかどうか)などもチェックポイントです。
本作は表面に軽微なクラック(乾燥によるひび割れ)が見られますが、絵具層や下地の剥離はなく、虫食いや漂白痕は認められません。過去に裏打ち替えとクリーニングが実施されており、専門家のリポート付き。フレーム上部に僅かな擦れ傷がありますが、展示・鑑賞に支障はなく、概ね良好な保存状態です。
初出は渋谷区の個人コレクションで、1970年代に神奈川近代美術館でのグループ展出品記録があります。購入証明書、発行元画廊のカタログ、鑑定書が揃っており、来歴の連続性が明確。これらの資料は市場価格を大きく後押しする要因です。
平野遼の都市風景小品は近年人気が高く、同様のF30号サイズ作品は300万~600万円。来歴証明やオリジナル額装付きで650万~900万円に達する例もあります。保存状態に小傷や補修歴があれば相場の70~80%程度となります。
油彩画は急激な温湿度変化に弱いため、室温20℃前後・湿度50%前後の環境が望ましいです。UVカットガラスを用いた額装で直射日光を避け、定期的に通気を行い、埃は柔らかな刷毛で払いましょう。裏打ち替えの際は、再度専門家による保存処置が推奨されます。
平野遼「陸橋」は、作家の詩情溢れるタッチと都市風景のユーモアを兼ね備えた名作です。署名・年記、画面状態、技法的完成度、額装オリジナル性、来歴資料という五要素が揃うことで骨董的価値が飛躍し、市場でも高い注目を集め続ける逸品と言えます。
鑑定のご相談、
お待ちしております!
多くの士業関係の方からも御依頼を頂いております。お気軽にご相談ください。