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本軸は戦後を代表する日本画家・中路融人(なかじ ゆうじん、1920–1999)の一作で、紙本着色による四季山水画です。軸装は表具師による本表具仕立てで、色絹地の中廻しと高級な金襴裂の上下裂を組み合わせた格式ある装い。作者直筆の落款と共箱が揃うことで、作品としての骨董価値が飛躍的に高まります。
中路融人は東京美術学校(現・東京芸術大学)で洋画から日本画に転向し、築地小谷会や創画会に参加。1950年代以降、抒情的かつ洗練された色彩感覚が評価され、帝展・新文展での受賞多数。国内外の展覧会に出品し、晩年は農山村の風景や古典モチーフの再解釈を手掛けました。
岩絵具や雲母を主体とする伝統的な日本画技法を基盤に、透明水彩的な薄塗りを多層に重ねる手法を確立。淡い群青や朱のグラデーションと、墨線の引き締めを併用し、緻密な細部描写と大胆な余白利用で独特の空気感を生み出します。金泥によるポイント装飾が洗練された煌めきを添えます。
本作は晩秋の渓谷風景を題材に、遠景の山並み、近景の紅葉樹、手前に小さな庵を配した三段構図。隠逸的な生活を思わせる静謐な佇まいと、遠近を墨の濃淡で巧みに表現した奥行が鑑賞の妙味です。余白部分の余韻が鑑賞者の想像を刺激します。
表具は本表具仕立てで、上裂に金襴織物、下裂は青地に銀糸を配した裂地を使用。中廻しは生成りの色絹で、絵との調和を重視。裏打ちは麻紙二度打ちで湿度変化に強く、軸先は塗り唐木の中太丸を採用。風帯は本紙と同柄の綴錦裂で統一感を保ちます。
本軸は経年による紙の黄変と僅かな虫損が見られるものの、裂地・裏打ちは良好。過去に裏打ち替えと軸棒交換が行われており、その際に細かな折れシワは修復済み。表具に大きな破損はなく、鑑賞に支障のない保存状態です。
共箱・修復済み表具完備の中路融人軸装作品は80万~150万円が相場。保存状態良好かつ初期作や受賞作は200万~300万円の例もあります。修復歴なし・保存極上品はさらに高額で取引されることがあります。
紙本表具は直射日光と高温多湿に弱いため、展示はUVカットガラス内、保管は湿度50~60%・温度20℃前後を維持。定期的に軸を巻き縮めて休ませ、埃は柔らかな筆で払い、クリーニングは表具師による専門メンテナンスを推奨します。
本軸には作者直筆共箱の他、購入時の茶道具店伝票と展覧会図録掲載履歴があります。来歴証明が整うことで、真贋や由来が明確になり、コレクションとしての価値が一層高まります。
中路融人作の日本画軸装は、作者の技法と表具師の技能が結実した骨董品です。落款・共箱・表具・本紙・来歴の五要素が揃うことで真の価値を発揮し、茶道具コレクターや日本画愛好家から高い評価を受ける逸品と言えます。
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