Menu
能面は能楽で用いられる顔面装飾具で、その微細な表情変化が舞台上で多様な感情を伝えます。中でも小面(こおもて)、翁(おきな)、中将(ちゅうじょう)は代表的な三種で、骨董品としても高い人気を持ちます。それぞれの面種が持つ歴史的背景や技術的特徴が、評価を左右する重要な要素となります。
能楽は室町時代に観阿弥・世阿弥によって確立され、能面制作も同時期から始まりました。小面は優美な若女を、中将は色香を帯びた中年女性を、翁は老人性を象徴する霊験あらたかな役柄を表現し、各々が創作当時の美意識や宗教観を映し出します。
小面は若い女性を描き、目尻や口角のわずかな調整で微笑や憂いを表現します。材質は欅(ケヤキ)や桐(キリ)が多く、下地には胡粉(ゴフン)を厚く塗布。髪際や目元にのみ薄く彩色を残し、舞台照明で表情が動的に変化する工夫が施されています。
翁面は長寿や福をもたらす老人役を示し、深い皺や大きく張り出した眉、口元の縦皺が厳粛さを伝えます。通常は素木仕上げか軽い拭き漆で落ち着いた色合いとし、神聖性を高める漆黒の眼孔が特徴です。
中将は色香漂う中年女性役で、甘美な微笑を浮かべながらもどこか儚さを感じさせる表情が魅力。眉や唇にわずかな彩色が残り、面頬(めんぼお)には透かし彫りを施す流派もあります。
能面は原木から荒彫り→中彫り→仕上げ彫りの順に形成。胡粉下地→彩色→漆塗り→拭き漆を数回繰り返し、漆膜の厚みと微妙な肌理を整えます。作者の名や流派印が内裏に刻まれ、真贋と制作年代の判定材料となります。
江戸後期~桃山期の古作で完品・共箱付は500万~1,000万円以上。小面や中将の良品は200万~500万円、翁面は300万~700万円程度が相場です。近代作や補修のある品は50万~200万円で取引されることが多く、流派や作者によって価格の幅が広がります。
能面は木+漆+顔料で構成され、湿度40~60%、温度20℃前後を保つ環境が望ましいです。直射日光や乾燥、エアコン風を避け、展示は周期的に休ませる。取り扱い時は綿手袋を着用し、面裏の紐や紐孔を点検すると長期保存に効果的です。
小面・翁面・中将面は、それぞれ異なる美意識と技術を結実させた能面の典型です。作家銘・流派印、下地漆・彩色の保存、彫刻の完成度、来歴資料の有無が価値を左右し、優品は骨董市場で高額取引されるとともに、能楽文化の重要な遺産として評価され続けます。
鑑定のご相談、
お待ちしております!
多くの士業関係の方からも御依頼を頂いております。お気軽にご相談ください。