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堆黒倶莉(ついこくぐり)は、中国南宋・元代に起源を持つ高級漆器技法「堆黒(ついこく)」と、日本で発展した螺鈿や多層研ぎ出し技法「倶莉(ぐり)」を組み合わせた希少な漆工芸品です。黒漆を重ねて盛り上げた文様と、丹念に研ぎ出した層紋が織り成す独特の深い艶と微細な陰影が魅力で、茶道具・調度品として重用されました。
堆黒技法は南宋~元代に佛教具として成立し、黒漆の厚層に唐草や龍・鳳凰文を盛り出すことで荘厳さを表現しました。日本には室町期に伝わり、桃山~江戸期に公家や大名によって隆盛。江戸後期には螺鈿や金箔を配した多様な装飾が試みられ、倶莉の研ぎ出し技法と融合して独自の美術漆器が完成しました。
まず木胎や堆積した漆を用い、炭粉や鉱物顔料を混ぜた黒漆を何度も塗り重ね盛り付けます。乾燥後、刀子や鑿で精緻に彫り出し、その後刃物で層を少しずつ削り研ぎ出す倶莉の工程を繰り返して多層の紋様を浮かび上がらせます。仕上げに天然漆で光沢を整え、螺鈿・金銀粉を細部に配します。
典型的な文様は唐草・蓮華・牡丹・龍虎・松竹梅など吉祥柄。盛り上げ層の黒と、研ぎ出すごとに現れる灰青・赤・黄などの漆層が重厚なコントラストを生み出します。外形は香盆・香合・水盤・屏風など多岐にわたり、特に茶道具では香合・建水の小品に豊かな陰影美が活かされます。
完全無傷・共箱・古裂仕覆付きの江戸後期~明治期本堆黒倶莉香合小品は150万円~300万円。中型の香盆や建水は200万円~500万円、大型屏風や花器など意匠複雑品は500万円以上となる場合があります。修補跡があるものは80万円~150万円が相場です。
漆器は直射日光・乾燥・過度な湿気に弱く、展示・保管は湿度50~60%、温度20℃前後で行います。研ぎ出し層は衝撃や擦れに脆いため、布張り棚やアクリルケース内での展示が望ましく、取り扱いは綿手袋を用いて漆面を傷めないよう注意が必要です。
堆黒倶莉は、漆工芸の盛り上げ技法と多層研ぎ出し技法を結合した極致の漆器であり、層紋の深みと装飾文様の荘厳さが骨董的価値を高めます。来歴・保存状態・技法の完成度が価値を左右し、良品は茶道具や調度コレクターのみならず、美術館収蔵品としても高く評価される逸品です。
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