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鉄砂(てっしゃ)鉄絵香炉は、陶磁器の表面に鉄分を多く含む砂状の釉薬(鉄砂釉)を用い、さらに鉄絵技法で文様を描き出した香炉です。鉄砂のざらりとした粒状の質感と、酸化鉄による黒褐色の発色、鉄絵の鉄錆色や黒色が融合し、素朴ながらも深い味わいを醸し出します。主に中国・日本の民窯で安土桃山期から江戸期にかけて制作され、茶道や仏前用として使われた意匠香炉として知られています。
鉄砂釉は、陶土に鉄分を多く含む砂を混ぜ、還元焙焼で鉄分が粒状に浮き出すよう調整したものです。焼成によって砂粒が釉表面に浮かび、ざらつきのあるマットな肌を生みます。一方、鉄絵は酸化鉄を含む顔料を筆で絵付けし、釉焼成後に低温で再焼成することで錆色や黒繪の濃淡を表現します。両技法を組み合わせることで、龍文や唐草、草花、仏像図などの文様が鉄砂の風合いに浮かび上がります。
鉄砂陶は中国・宋代の錆釉陶器に源を発し、明末清初に日本へ伝わりました。日本では備前、常滑、信楽 などの民窯が鉄砂釉を独自に発展させ、鉄砂香炉が茶会道具や禅寺の香具として用いられました。江戸後期になると、鉄絵を組み合わせた意匠香炉が流通し、型押しや手彫りによる造形と相まって、一段と高い鑑賞価値を獲得しました。
鉄砂鉄絵香炉には、以下のような意匠が見られます:
・龍虎文:香炉の胴部や蓋に龍や虎を鉄絵で描き、勇壮さを演出。
・山水・風景図:山水画風の墨絵を思わせる淡い鉄絵で緻密に風景を表現。
・唐草・花卉文:唐草文や桔梗・菊などの吉祥文様を繊細にあしらう。
・仏教図像:観音や如来、菩薩などをモチーフにした荘厳な文様。
また、高台や把手、蓋摘みに獅子頭や獣耳、透かし彫りなどを組み合わせた造形香炉もあり、機能性と造形美を兼ね備えます。
鉄砂釉香炉は湿気や酸性湿気に弱いため、保存場所は湿度40~60%、温度15~25℃を保つことが望ましいです。使用後は内部の灰や香残りを完全に取り除き、柔らかなブラシや布で乾拭きしてください。金属製の香炭網や香立ては別に管理し、鉄絵部に研磨剤や化学洗浄剤を使用しないことが長期保存のポイントです。
鉄砂釉と鉄絵の完成度が高く、箱書きや来歴が明確な江戸後期~明治期の意匠香炉(小型・蓋付)は80万円~200万円、唐草・龍虎文など龍文堂流や古窯印が残るものは200万円~500万円の落札例があります。状態良好な無銘品や補修跡のある実用品は20万円~80万円が相場となります。
香炉鉄砂鉄絵香炉は、鉄砂釉の素朴な粒状肌と鉄絵の金属的意匠が調和した希少な骨董品です。釉調の粒度、鉄絵の筆致、造形の精緻さ、来歴資料の有無が価値を決定し、完全品は茶道具や美術工芸コレクションの中核を担います。今後も愛好家・コレクターの間で高い評価と需要を維持し続けることでしょう。
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