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銅地金銀象嵌瓶(どうじきんぎんぞうがんへい)は、銅製の瓶体に金銀の細線や薄板を象嵌(ぞうがん)して装飾を施した工芸品です。器形は茶湯用の水注や華道用の花入れとして用いられることが多く、重厚でありながら華麗な文様表現が際立つ骨董品として珍重されます。
金銀象嵌技法は古代エジプトや中国・インドで起こり、東アジアへ伝播しました。日本では鎌倉~室町期の刀装具や甲冑に象嵌が用いられ、その後茶道具や香道具、花器に応用。江戸後期~明治期の陶工や金工 家が技法を習得し、銅瓶への金銀象嵌は工芸展の人気作となりました。
本体素材は純銅または銅合金(青銅など)で、錆止めや色調を抑えるため茶褐色の被膜を形成します。銅地は緻密な鋳造か鍛造で成形後、研磨と焼き入れを繰り返して平滑化。象嵌面とのコントラストを高めるため、鏡面仕上げか梨地(なしじ)仕上げが選ばれます。
①文様下絵:銅地表面に線刻で下絵を描き、象嵌溝を彫る。②金銀線・薄板加工:金箔や銀箔を糸状・板状に切り出し、細工しやすい硬度に調整。③象嵌:溝に金銀を打ち込み、金象嵌は細線、銀象嵌は面象嵌で用いる。④研磨・仕上げ:余分な金銀を研ぎ落とし、溝底と象嵌体が一体化した面を仕上げる。最後に漆で接合部を補強し、耐久性を向上させる。
文様には龍虎・鳳凰・牡丹・唐草・波濤など吉祥や力強さを象徴するモティーフが多用されます。瓶肩から胴、底部まで帯状に巡らせる「帯文様」や、全面に散らす「散し象嵌」など構成に工夫が見られ、空間の取り方で高級感と動きを演出します。
真作は象嵌線の断面が鋭く、溝と金銀線の隙間が極めて微小です。手打ち痕(鎚痕)の揺らぎ、溝底の自然な鋳肌残存、金銀の微細な凹凸、漆補強の経年変色が確認できます。模倣品は機械彫りで溝が均一、研磨跡が平坦すぎる、銀色メッキで代用される場合がある点に注意します。
銅地金銀象嵌瓶は作家名・来歴・文様の複雑度で価格が大きく変動します。無銘の江戸期写し品は数十万~百万円台、名工(伝来灯会・宮内庁御用達工房)作は数百万円~千万円超。共箱・証明書・付帯品が揃う完全品は更に高値が期待されます。
銅地の緑青(ろくしょう)保護膜と象嵌部の銀の硫化被膜を尊重し、化学的洗浄や強い研磨剤の使用は禁物です。埃は柔らかな馬毛筆で払い、湿度50%前後・温度20℃前後の安定環境で保管。銀象嵌部は銀磨きクロスで軽く磨く程度に留めます。
展示時は斜め上方からの間接光で文様の陰影を強調し、銅地の温かい色味と金銀の煌めきの対比を引き立てます。茶席や床の間では銀象嵌面を正面に向け、香炉台や棚飾りに配して、空間に華やかなアクセントを加えます。
銅地金銀象嵌瓶は、金工・漆工・鍛冶技術が融合した総合工芸品です。素材・技法・意匠・真贋要素・市場価値・保存方法を総合的に鑑定し、適切な管理と展示を行うことで、その歴史的・美術的価値を末長く次世代へ継承できます。
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