Menu
桃色珊瑚帯留めは、天然桃色珊瑚(サンゴ)を金具に嵌め込み、着物の帯締めを留める装身具として用いられる和装小物です。珊瑚の優しい桃色が帯周りを華やかに彩り、帯留め本体は金銀・赤銅・七宝などの金工細工を組み合わせた高級品として、骨董市場でも広く愛好されています。
桃色珊瑚は地中海・紅海・インド洋沿岸で採取されるカラーコーラルの一種で、天然の有機宝石として古くから装飾品に用いられてきました。淡い桃色〜深紅まで濃淡があり、内部に細かな縞目や照りが見えるほど希少性が高まります。珊瑚は硬度3〜4の軟質石で、傷が付きやすい反面、研磨で艶が増し、経年変化で飴色に深まる味わいが魅力です。
珊瑚を用いた装身具は江戸時代中期以降に日本に伝わり、明治維新後の開国で欧米からの珊瑚製品と技術が流入。大正〜昭和初期には日本の彫金家が桃色珊瑚を帯留めへ応用し、工芸展や百貨店の高級品コーナーで取り扱われるようになりました。帯留めは慶事・礼装用として特に好まれ、女性の格式ある装いを演出しました。
桃色珊瑚帯留めの金具部分には、銀地に金鍍金や赤銅象嵌、七宝焼きなどが用いられます。金彩蒔絵的な金箔小粒を埋め込んだもの、鏨彫で桜や波文を刻んだもの、金線象嵌で梅枝や流水文を表現したものなど、彫金技法の多様性が伺えます。珊瑚の丸玉や彫刻珠を枠で包む「枠留め」技法も高級品に多く見られます。
著名な金工家では、神戸の銀細工師—北村雪年・川崎和光らの作例が知られています。彫銀の繊細な線刻と七宝の色彩を組み合わせ、桃色珊瑚の色味を引き立てるモダンな意匠を得意としました。京都の象嵌工房でも江戸小紋柄をモチーフにした帯留めが制作され、作家物として流通しています。
真作判定では、まず珊瑚本体の色むらや縞目、内部の自然な艶、硬度テスト(歯で軽く噛んだ際の感触)を観察。合成コーラルや樹脂製模造品は色味が均一すぎたり、硬度が低かったりします。金具は刻印(「純銀」「銀925」「金具師印」など)と彫金の刀痕の自然さ、象嵌線の密着度を確認。裏面の彫金痕や留め具の構造も重要な真贋材料です。
桃色珊瑚帯留めの相場は、珊瑚の色の鮮やかさ・透明感、金工意匠の技巧、作家名・来歴の有無で大きく変動します。無銘の小型枠留めは数万円~十万円前後、珊瑚色が濃厚で金工技巧が高い作家物は百万円以上になることもあります。共箱・仕覆・保証書が揃う完全品は更にプレミア価格を呼びます。
珊瑚は酸に弱く、汗や化粧品のアルカリ成分で表面が曇るため、着用後は柔らかな布で優しく拭き取り、帯から外して湿気の少ない室内で保管します。金具は銀製品同様に硫化による黒変が起こるため、銀磨きクロスで軽く磨くにとどめ、化学薬品の使用は避けてください。
帯締めに帯留めを通す際は、前帯の中心位置を厳密に計り、左右均衡を保つことで珊瑚と金具の意匠が正面を向き美しく映えます。華やかな色柄の帯や着物にはシンプルな金具留めを、無地・間道柄には装飾性の高い帯留めを合わせると、珊瑚の桃色が際立ちます。
桃色珊瑚帯留めは、有機宝石としての珊瑚の美しさと金工細工の技術が結晶した和装小物です。素材・技法・作家・真贋要素・来歴・保存状態を総合的に鑑定し、適切に扱うことで、その歴史的・美術的価値を未来へと継承できます。
鑑定のご相談、
お待ちしております!
多くの士業関係の方からも御依頼を頂いております。お気軽にご相談ください。