蒔絵天目台一対 買取実績

蒔絵天目台一対の概要

蒔絵天目台一対は、天目茶碗を安定して置くための小型台座で、黒漆塗りの上に金蒔絵や研出蒔絵で草花文や古典文様をあしらった対の工芸品です。茶席における天目碗の見栄えを高める脇役であると同時に、蒔絵技法の粋を示す骨董品としても高い評価を受けます。

歴史的背景と用途

天目台は中国宋代の茶席用具に端を発し、日本には鎌倉時代に禅宗僧を通じて伝来しました。江戸時代には茶道具として独自に発展し、天目碗を床几や棚ではなく卓上で扱う際の専用台として定着。蒔絵を施した高級品は大名や茶人の席で用いられ、客の目を引く意匠として珍重されました。

素材と下地処理

台座は桐または栓の木地を用い、研磨と研出しを繰り返して平滑な下地を作ります。その上に瓜殻研ぎ下地（地粉漆に砥粉を混ぜたもの）を幾層も塗り重ね、研ぎ出すことで木地を完全に覆い隠し、強固な下地層を形成します。

蒔絵技法の特色

本作例では平蒔絵・研出蒔絵を組み合わせ、金粉・銀粉を使い分けています。平蒔絵で輪郭線を描き、研出蒔絵で地漆を研ぎ出して金地を浮かび上がらせる「陰影蒔絵」が用いられ、文様に立体感と深みを与えています。

代表的意匠と文様

対の台には「桐鳳凰文」と「唐草連珠文」を配置し、桐鳳凰は長寿と吉祥の象徴、唐草連珠は調和と連続性を表現します。縁周りの金縁細線には研ぎ出し技法で繊細なギザギザ文様を巡らせ、全体の引き締めを図っています。

真贋鑑定のポイント

真作の証しは、蒔絵面の金粉粒子の不均一さ、研出し跡の微細な研ぎ粉の残存、地粉漆下地の研磨ムラにあります。後補品や再塗装品は研出しが均質で金粉が均一に見え、地粉漆の剥落や下地の露出が不自然になる傾向があります。

時代考証と来歴

本一対は江戸中期頃の作と推測され、裏底に墨書銘「享保甲午年」や旧蔵家印が残存します。来歴を示す古箱や帛紗包みが付属する場合、加賀藩や表千家伝来といった伝承が価格を大きく左右します。

市場価値と価格相場

状態良好な江戸中期蒔絵天目台一対は、茶道具専門オークションで数十万～百万円台が相場です。名工作や蔵跡が確かな古来品は百万円～数百万円に達することもあり、共箱・来歴書付が揃う完全品はさらに高値が期待されます。

保存・取り扱いの注意点

漆器は湿度変動と直射日光に弱く、乾燥割れや蒔絵の剥落を招くため、温度20℃前後・湿度50％前後の安定環境で保管してください。埃は馬毛筆で優しく払い、化学薬品や硬い布で拭くのは厳禁です。

茶席での鑑賞と設置

茶席で天目碗を置く際は、台の文様が正面を向くように配置し、碗の光沢とのコントラストを楽しみます。客に台の意匠を眺めてもらうため、天目碗を軽く傾ける所作を交えると、蒔絵の陰影が一層際立ちます。

まとめ

蒔絵天目台一対は、漆芸と茶文化が融合した工芸品の代表格です。素材・技法・文様・来歴・市場価値・保存方法を総合的に鑑定し、適切に管理することで、その歴史的・美術的価値を次世代へと継承できます。