Menu
エミール・ガレ(Emile Gallé)の「桜草文(サクラソウ文)花器」は、アール・ヌーヴォー期に製作された被せガラス+カメオ彫刻(エッチング/酸化腐食彫)を用いた装飾ガラスの代表例です。自然主義的な草花表現と色彩の重層によって、ガレの植物モチーフの作例群のなかでも親しまれてきました。
多くは多層に被せたガラスを切削・酸で腐食させて図を浮き彫りにするカメオ技法で、さらにエナメル彩や内面磨きを施すことにより深みのある色調と光沢を獲得します。作例の年代(1890年代前後)には、ガレ工房で版下や図案を共有して制作されたシリーズが多く見られます。
桜草(Primula/サクラソウ)は春を告げる草花で、ガレの植物シリーズでは自然の生息環境や葉の配色も意匠化されます。淡い胴地に緑や赤、ピンク系の被せを重ね、花の輪郭をカメオで際立たせる表現が典型的です。実作は個々の色層・腐食深度・エナメル着色の差で同一図題でも表情が違います。
鑑定では(1)底面の署名(gallé等)や刻印の書体・位置、(2)ガラス層の被せ構成と切削面の段差、(3)酸蝕によるエッチングの深さと自然さ、(4)内面研磨やポンティル痕(底の磨き跡)、(5)エナメル彩の経年変化を総合的に確認します。模造では署名の印刷痕や被せ層の不自然さが出やすいです。
被せガラスは層間の剥離・チップ・酸蝕痕の悪化を招く急激な温湿度変化や衝撃を避け、柔らかい布で埃を払う程度にとどめます。エナメル部分やカメオの浮彫は摩耗に弱く、強い化学薬品や研磨は厳禁です。博物館収蔵例に倣いUVカットと低照度での展示が望ましいです。
価値は作行き(エミール直作か工房作か)、署名の有無と正当性、色層の美しさ、保存状態、来歴(収蔵・展覧歴)で決まります。良好なサクラソウ文のガレ花器はコレクター市場で高評価を受け、同図題でもサイズや色調によって相場差が大きく出ます。
査定時は底面の署名や刻印・ポンティル痕の高解像度写真、ガラス断面が分かる斜めの拡大写真、来歴書類を用意してください。疑義がある場合は版元記録や博物館所蔵例と照合し、ガラス工芸専門の鑑定を受けることを勧めます。
エミール・ガレの桜草文花器は、被せガラスの色層とカメオ彫刻が生む詩的な植物表現が魅力の工芸骨董です。技法的特徴・署名・色層と保存状態を丁寧に確認することで真贋と価値が見えてきます。
鑑定のご相談、
お待ちしております!
多くの士業関係の方からも御依頼を頂いております。お気軽にご相談ください。