Menu
エミール・ガレの「葡萄文花瓶」はアール・ヌーヴォー期に制作された被せガラス(カメオガラス)を用いる典型作で、葡萄と葉を詩情豊かに表現した植物図案が魅力です。ガレ工房の植物シリーズの一部として美術館所蔵例やオークション出品例が多く見られます。
多層の被せガラスを切削・酸蝕で彫り出すカメオ技法により、層ごとの色が重なって深い色調と立体感が生まれます。仕上げにエナメル彩や内面磨きを施す場合があり、花器表面の段差や切削面の自然さが本作の技術力を示します。
鑑定でまず見るべきは底部の署名(“Gallé”の刻印・カメオ署名)やポンティル痕、ガラス層の断面、酸蝕の深さです。署名は模刻も多いため、刻印の位置・書体・彫り跡とガラス技法全体の整合性を合わせて判断します。
葡萄は古来、豊穣・結実を象徴する文様であり、葉の蔓や実の塊を流麗に配置することで装飾性と物語性を両立させます。ガレは植物の生態や色相差をデザインに取り込み、同じ図題でも色層や腐食の深さによって個体ごとに表情が異なります。
鑑定では(1)署名の筆致と刻印形状、(2)被せ層の段差と切削の鋭さ、(3)ポンティル(底の磨き)痕、(4)エナメルの経年クラック、(5)来歴資料(購入証明・展覧履歴)を総合します。模作や後刷りが多く流通するため、書誌(レゾネ)や博物館所蔵例と照合することが重要です。
ガレの被せガラスは層間の剥離やチップ、エナメルの摩耗に弱く、急激な温湿度変化や衝撃を避ける必要があります。埃は柔らかい布や馬毛筆で払うにとどめ、強い洗剤や研磨は厳禁。展示は低照度とUVカット推奨です。
割れ・欠けの接着や欠損部の補填は専門のガラス保存修復士に依頼してください。再接着材や充填材は可逆性のあるものを用い、修復記録を文書化して来歴に付記することが将来の価値保持に重要です。
ガレの葡萄文花瓶は署名の有無、色層の美しさ、サイズ、保存状態、来歴で価格が大きく変わります。美術館収蔵例やオークション出品(例:Christie’s等)では、作行きや希少性に応じて高額で取引される一方、復刻・模造品も流通しているため相場の確認が必須です。
「ガレ風」や復刻のカメオガラスは大量生産されており、底面に“Made in China”などの痕跡や署名の不自然さで見分けられることもあります。購入・鑑定時は出所と技法的整合性を厳密に確認してください。
査定に出す際は高解像度の全体写真、底部の署名クローズアップ、ガラス断面の斜め写真、ポンティル痕、来歴書類を揃えて提示してください。疑義がある場合はガラス工芸専門の鑑定士や主要オークション・カタログでの照合をお勧めします。
エミール・ガレの葡萄文花瓶は、被せガラスの層構成・カメオ彫刻・色彩構成・署名の整合性・来歴という複数の要素を総合して評価する総合骨董です。技法の痕跡と保存状態に注意し、来歴資料と専門家照合を踏まえることで真贋と価値を見極められます。
鑑定のご相談、
お待ちしております!
多くの士業関係の方からも御依頼を頂いております。お気軽にご相談ください。