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馬桶(ばよう)は、中国・唐代(618~907年)に盛んに作られた三彩陶器の一種で、現代でいう便器や水杯など生活用具のミニチュア模型として造られたものです。三彩釉(緑・黄・褐の三色釉)を駆使した鮮やかな色彩と、馬型や犬型など動物の形を模した遊具的意匠が特徴で、墓室に副葬品として納められています。
唐三彩の馬桶は、盛唐期の富裕層や貴族が来世でも快適な暮らしを望む信仰と、遊戯的要素を兼ねた葬送文化から生まれました。実際の生活用具を模したミニチュア器が、墓室で生者の代用品として機能し、棺内での“来世の生活”を補完すると考えられました。
素地は西域産の良質な粘土を用い、素焼後に三彩釉を掛け分け、本焼成(約900~950℃)で釉薬を溶融させます。緑釉は銅、黄釉は鉄、褐釉は鉛を顔料とし、硫化鉛で発色を調整。釉の厚薄と焼成位置で色調が変化し、同一窯でも個体差が大きいのが魅力です。
馬桶の基本形は桶形の本体に三足台を付け、前後に馬の頭部と尾部を象った造形が施されます。尻尾と鬣は立体的に彫出し、鞍や轡を模した文様が彩釉で強調される例も。桶の縁には波状文や紐文が浮彫され、桶底に「唐三彩 馬桶」の墨書銘が残るものもあります。
主要な出土地としては陝西省の長安近郊や河南省の洛陽、山東省の曲阜などが知られ、山東系は色相が明るく、西北系は緑釉主体で濃厚な色調を呈します。出土個体は墓主の身分や年代によって大きさが異なり、高貴層の墓からは大型(30cm以上)・高品質品が多く出土しています。
真作判定では、素地の鉄粉混入具合、釉下の貫入や気泡、鋳型継ぎ目の消し込み痕を確認します。釉の発色ムラ、釉流れの自然な垂れ、釉裏の櫛目跡が本物の証しです。後世復刻品は釉層が薄く、色調が均一すぎたり、素焼き地に人工結晶が浮いたりするため注意が必要です。
唐三彩馬桶は保存状態・出土地・彩釉の鮮やかさで価格が大きく変動します。小型の写し品的副葬品は数万円~十数万円、中型で良質な出土地個体は数十万~百万円台、大型高品質品や珍型は数百万円~千万円超の評価を受ける例もあります。
陶器は衝撃や落下に極めて弱いため、展示・保管はクッション材を敷いた台座を利用し、直射日光や急激な温湿度変化を避けます。埃は柔らかな刷毛で優しく払い、化学薬品での洗浄は厳禁です。長期保存時は密閉ケース内で湿度40~60%を維持すると良好です。
馬桶はその美しい彩釉と遊戯的造形から、古代陶磁コレクションの人気ジャンルです。異なる出土地・色調・馬型意匠を並べ、窯場ごとの特色を比較・鑑賞すると、唐代の陶工技術と葬送文化の豊かさを実感できます。
中国唐三彩「馬桶」は、古代の葬送信仰と技術美が融合した稀少な骨董品です。素地・彩釉・文様・出土地・経年変化を総合的に鑑定し、適切な展示・保管を行うことで、その美術的・歴史的価値を末長く楽しむことができます。
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