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備前焼は岡山県備前地域で鎌倉時代より続く日本六古窯の一つで、無釉焼締めの素朴な風合いと薪窯による自然釉(焼き締まり景色)が特徴です。茶陶として桃山時代に隆盛し、江戸期以降は酒器や花器にも用途が広がりました。現代では土味と焼成による偶然の美を尊ぶ民藝の精神を受け継ぎ、作家物として評価されています。
山本陶秀(やまもと とうしゅう、1903–1984)は昭和61年に重要無形文化財「備前焼」に認定された人間国宝で、伝統的な備前土と薪窯の技法を徹底的に極めた名工です。彼の徳利は、素地の鉄分による赤褐色の土味に、窯変で生じた灰被りや焦げがアクセントとなり、口縁の切り出しや高台周りの焼成変化が見事です。胴に配されたくびれや肩の張りが抑制の効いた美学を示し、手にすると土のぬくもりと重みが共に伝わります。
伊勢崎淳(いせさき じゅん、1948–)は山本陶秀に師事し、備前焼の伝統を継承しながらも、新たな形状や釉調を研究する作家です。彼の徳利では伝統的な肩衝形に加え、細身の筒形や胴部に彫刻を施す作品も見られ、焼成中の還元炎と酸化炎を意図的に併用して複雑な焼け分けを試みます。伊勢崎作品の高台裏には「淳造」の銘と制作年が刻まれ、師匠譲りの精緻な焼成変化が評価を受けています。
備前焼の原料は備前地域の鉄分豊富な赤土を主体に、粘土と砂の配合を職人が微調整します。成形は手びねりまたはろくろ挽きで、胴部のくびれや口縁の薄さに加え、高台の削り出し具合が作品の表情を左右。薪窯は数日間、五十度刻みで温度変化を繰り返し、灰が降りかかることで釉薬を用いずに自然釉を得る焼締め技法が最大の魅力です。
徳利は酒を注ぎやすい細い口と安定した胴部、手に馴染むサイズ感が求められます。山本陶秀の作では、肩から胴にかけての緩やかな曲線と、見込み(口縁内側)の滑らかさが手仕事の高い完成度を示します。伊勢崎淳の作では、意図的に残された轆轤目や削り跡がモダンなアクセントとなり、伝統と現代感覚が融合した佇まいを生み出します。
真作判定では、土味の鉄分含有量、焼成時の灰被りパターン、口縁の切り口のシャープさ、高台裏の銘記を確認します。山本陶秀作は「陶秀造」刻銘とともに高台の焼成変化が深く、伊勢崎淳作は「淳造」銘の書体と共箱の箱書きが真贋を左右します。また、ろくろ目や手びねり痕の自然さも重要です。
山本陶秀の徳利は名品として300万~800万円以上、保存状態と来歴書付によっては1,000万円を超える例もあります。伊勢崎淳の作は100万~300万円が相場で、現代作家物としては高価格帯。無銘作家の共箱付き優品でも数十万~百万円程度です。
徳利は単体でテーブルセンターに置くだけで絵になる器です。並べて蒐集すると、作家ごとの土味・焼成景色・形状の違いを比較し、備前焼の多様性を実感できます。酒を注いだ際の音や手触り、口当たりも含め、五感で備前陶芸を楽しめる逸品群です。
備前焼は無釉のため、急激な温湿度変化や強い衝撃に弱い性質があります。温度20℃前後・湿度50%前後の安定環境で保管し、埃は柔らかな筆で払い、水洗いは避けて乾いた布で拭く程度にしてください。共箱や仕覆を併用し、長期保管時の温湿度変化を抑えると風合いを長持ちさせられます。
人間国宝・山本陶秀と伊勢崎淳ら現代作家による備前焼徳利は、土・炎・手仕事が生み出す偶然の美と計算された意匠美が共存する骨董品です。素材・技法・作家印・来歴を総合的に鑑定し、適切に保存管理することで、その歴史的・芸術的価値を次世代へと継承できます。
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