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元染付(げんそめつけ)花瓶・壺は、中国元代(1271–1368年)に景徳鎮窯で制作された青花磁器で、鉄コバルト顔料による藍色の文様が白磁に鮮やかに映えます。花瓶や壺の形式は、筒形、瓶形、玉壷形、肩衝形など多彩で、花器としてだけでなく飾り壺として宮廷や大商人邸宅に用いられました。
元代初期にアフガニスタン産コバルト(蘇麻離青)が輸入され、これまでの鉄絵に比べて深い藍色を実現。南宋の白磁技術とイスラム陶器の青花技法が融合し、景徳鎮で大量生産が始まります。元中期~後期には文様の精緻化、花瓶・壺の形状バリエーションが拡大し、後の明・清の青花発展の礎を築きました。
胎土には高温焼成に耐える白磁土を用い、轆轤(ろくろ)挽きで成形後に素焼き。その後、釉下にコバルト顔料で文様を手描きし、約1,300℃で本焼成します。焼成中の還元雰囲気が藍色の発色を左右し、丁寧に管理された窯場ほど均一で濃染な藍が得られます。
元染付花瓶・壺の代表形は〈筒形花瓶〉〈肩衝形壺〉〈玉壷形〉〈瓶頸形〉など。文様は蓮唐草、雲龍、葡萄唐草、仏教図像(蓮池水禽図)、幾何学模様(卍崩し紋)など多岐にわたり、回廊的連続文様を強調した大画面構成が特徴です。
元代景徳鎮窯の染付には、底部無釉の素地輪花縁や、裏底内側の竹節状の窯疵が見られます。款識は明確には残らず、版式や窯肌、釉裏の貫入/黒点、胎土の鉄粉混入具合、釉下の筆跡の揺らぎなどで元代製を識別します。
本物は、胎土の鋭利な断面、釉下コバルトの潰れ具合、釉層の厚みと貫入の自然な入リ方を示します。偽物や明清写しは顔料が人工的に濃く、釉面が均一すぎる他、胎土に石英粒が多すぎる、底部の釉残りが不自然といった特徴が見られます。
元染付の本製品は極めて希少で、花瓶一対や壺一口で数千万円~数億円規模のオークション落札例があります。状態良好・大小・文様の組み合わせにより価格が大きく変動し、箱書きや来歴書付のある個体はさらに高値です。
高温焼成の青花磁器は丈夫ですが、急激な温湿度変化で貫入に汚れが入りやすく、磁器の割れやチップに注意が必要です。展示は温度20℃前後・湿度50%前後を維持し、直射日光や強い照明を避け、埃は柔らかな筆で優しく払います。
元染付花瓶・壺は、中国陶磁史の黎明期における青花技術の真髄を示す金字塔。形状・文様・発色を比較しながら蒐集することで、景徳鎮窯の窯変や時代背景を実感できます。陳列展示や茶席の床飾りとしても場を格調高く演出します。
元染付の花瓶・壺は、イスラム技法と中国白磁の融合から生まれた極上の青花磁器です。製法・胎土・文様・焼成痕を総合的に鑑定し、適切な保存管理を行うことで、その歴史的美術的価値を未来へと受け継ぐことができます。
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