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古備前壺は、岡山県備前地域で生産された日本最古級の焼き物の一つで、特に鎌倉時代(12~14世紀)に隆盛を極めました。素朴で力強い土味と赤褐色の肌、自然釉の窯変を特徴とし、武家社会の実用器としてだけでなく、禅僧の茶会用具や神前供物器としても重用されました。
直線文壺は胴部に櫛目や銅刷毛で引いた直線状の文様を巡らせたもので、幾何学的リズムを生む装飾が特徴です。肩衝(かたつき)形や筒形に近い胴部をもち、口縁部がやや外反するとともに、高台に向かって胴がふくらむ安定感のあるプロポーションを示します。
備前の鉄分豊富な赤土を素地とし、釉薬をかけずに窯内の薪灰が溶けて自然釉となる「素焼き焼締め」技法を用います。還元焔(えん)と酸化焔が交錯する窯内で、窯変による帯状の褐色や黒茶色、灰釉の垂れが偶然に生じ、それぞれの壺に唯一無二の表情を与えます。
直線文は、単なる飾りではなく、胴部の回転成形を強調し、光と影のコントラストを際立たせる役割があります。櫛目文は轆轤挽きの軌跡を活かしつつ造形に動きを与え、銅刷毛文は金属粉を含む刷毛が土面に残ることで鮮やかな光沢を放ちます。
鎌倉期には数十基から百基を超える備前窯が稼働し、泉州や瀬戸、さらに京都・奈良の寺社にも大量に輸出されました。直線文壺もまた大名家や有力武士へ贈答・進物として買われ、当時の交通網・水運を介して全国に流通しました。
古備前壺の真贋は、土味の鋭さ、窯変の自然さ、高台削り跡の鏨痕、直線文の深さや均一性を観察します。均質すぎる文様や、釉斑の不自然な連続は後補の疑いがあります。高台裏の焼成時の灰被り具合や焦げ色、内面の酸化還元ムラも真作判定に重要です。
鎌倉期の古備前直線文壺は、保存状態・文様・窯変の見栄えによって数百万円~千万円を超えることがあります。無傷・高台完全な優品は特に高額評価され、美術館向けのコレクションとしても重用されます。
古備前壺は、土と炎が織りなす自然美が最大の魅力です。直線文壺は文様のリズムと窯変の色調変化が鑑賞ポイントとなり、単独での飾り壺としても、花器や茶道具としても重宝されます。複数並べて窯場ごとの個性を比較するコレクションの楽しみもあります。
備前焼は釉薬をかけないため、素地の貫入や小穴に埃や汚れが入りやすい性質があります。乾いた布や柔らかな筆で埃を払い、直射日光や急激な温湿度変化を避けて管理します。展示は専用台座を用い、転倒防止策を講じることが望ましいです。
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