Menu
古瀬戸茶入れは、愛知県瀬戸地方で室町時代から桃山時代にかけて焼かれた素朴な陶器茶入れです。古瀬戸窯は、灰釉や鉄釉が自然釉として滲む温かみのある色合いと、無造作ながら味わい深いかたちが特徴で、茶道具の茶入れとして骨董品市場で高く評価されます。
瀬戸焼は室町時代中期に瀬戸川沿いの窯場で始まり、灰釉技法の普及とともに「古瀬戸」と呼ばれる粗陶が成立しました。桃山文化の茶の湯隆盛期に千利休らが茶入れとして採用し、堺や京の茶席に流通。侘び寂びの美意識を具現化する茶入れとして珍重されました。
古瀬戸茶入れは〈肩衝形〉〈肩衝写し〉〈筒形〉〈俵形〉などがあり、胴部に胴縫い痕やへこみを残す素朴さを尊びます。口縁は切りっ放し、底部は焼き締めた未施釉の土味が見えるものが真作の証。灰釉や鉄釉が釉垂れを起こし、釉景色(うきづら)の滲みが鑑賞要素です。
素地には瀬戸周辺産の鉄分含有土を用い、簡易な板状成形や手びねり成形を経て素焼きします。天然灰釉は釉薬調合を行わず、薪灰を拝掛けした「生掛け」技法が主体。還元焼成による微妙な発色と、釉溜まり・窯疵(キズ)が自然な味わいを生み出します。
真作を見分けるには、素地の鉄分による茶褐色の土味、釉面の発色ムラや貫入具合、手びねり特有の指跡やロクロ目の乱れ、底部の焼成痕(炭化斑)を確認します。後補品は釉調が均一すぎたり、底裏の素地に人工的コーティングが見られたりするため注意が必要です。
古瀬戸肩衝茶入れの相場は保存状態・釉景色・来歴により大きく変動します。素朴な無銘品でも数十万円、一流茶道具商の鑑定書・共箱付完全品は百万円を超えることがあります。桃山期の希少作や名家旧蔵品はさらに高額となります。
古瀬戸茶入れは、姿形の凛とした力強さと、自然釉の偶然性が醸し出す侘びの深さが魅力です。複数点を並べ、釉景色や形の個性を比較することで、茶陶の原点に近い民窯美を学べるコレクターが多く存在します。
陶器は急激な温湿度変化や衝撃に弱く、特に古瀬戸の素地は浸水性が高い場合があります。使用後は茶渋を洗い流し、乾燥させてから保管。埃は柔らかな筆で払う程度とし、長期保管時は防湿剤とともに桐箱に収めると貫入への汚れ防止になります。
古瀬戸茶入れは、戦国・桃山期の陶芸技術と茶道美意識が結実した名品です。形状・釉調・土味・来歴を総合的に鑑定し、適切な保存管理を行うことで、その歴史的価値と美しさを次世代へ継承できます。
鑑定のご相談、
お待ちしております!
多くの士業関係の方からも御依頼を頂いております。お気軽にご相談ください。