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喜多川歌麿(きたがわ うたまろ、1753–1806)の「扉を使ふ美人立ち姿」は、江戸後期の浮世絵における名品の一つで、扉を支えながら立つ美人の仕草と髪型、衣文の描写が優美な肉筆美人画風を彷彿とさせる錦絵です。美人画の名手として名高い歌麿が、版元〈蔦屋重三郎〉の元で18世紀末頃に手がけたとされ、江戸の町人文化や女性美への憧憬を象徴します。
本図は天明〜寛政年間(1781–1801)頃の制作とされ、錦絵摺りが普及した時期に当たります。扉の木地模様や襖の縁取りなど背景要素を簡略化し、女性の立ち姿に焦点を当てることで、当時の木版技術による色彩表現の先端を示しています。版元摺りのため複数摺りが流通しましたが、良好な保存品は少なく、希少性が高い逸品です。
歌麿の肉筆美人画のような柔らかな表情を再現するため、細線彫りの多重摺り技術が駆使されました。肌の淡い胡粉地に、ぼかし摺りで頬や衣縁の色を繊細につけ、襦袢の淡紅・裳裾の浅黄・帯の墨調文様が調和。背景は淡い墨一色刷りで人物を際立たせています。版木の摩耗を防ぐため良質和紙(越前・美濃紙)が用いられ、摺り再現性が高いことも特徴です。
女性は檜扉を左右両手で軽く支え、斜め上方を見つめる仕草で、視線の先にある物語性を感じさせます。裾を軽く持ち上げた裳腰の動き、襟足を見せた垂髪(すいがみ)風の髪型、扇子を帯に差した小道具が、当時の流行美を伝えます。縦長構図を活かし、衣文の細部と扉の直線的意匠が対比を成し、全体に優雅なリズムを生み出しています。
旧蔵家や浮世絵研究家による収集記録、展覧会図録掲載履歴が揃うと真贋判定に有利。特に江戸期摺りの現存品は減少しており、慶応年間以降の復刻摺りと区別できる版元摺り完品はコレクター評価が高いです。鑑定書や専門家の検証レポートがあれば、価値はさらに上昇します。
良好な天明〜寛政期の初摺りは、一面物で150万〜300万円以上が相場。状態に応じて50万〜100万円台の落札例もあり、共箱付・箱書き明確品はさらに10〜20%のプレミアがつきます。大判三枚続など特殊形態は希少性が高く、500万円以上となる場合があります。
浮世絵は酸性大気・紫外線・湿度変化に弱いため、室温20℃前後・湿度50〜60%の安定環境で保管。展示も短期間にとどめ、博物画用LED照明で直射日光を避けます。埃は柔らかな筆で軽く払い、額装時は酸性フリーのマット・裏打ち材を用いることが長期保存の鍵です。
歌麿「扉を使ふ美人立ち姿」は、多色摺り技法・優美な意匠・江戸女性美の象徴として骨董的価値が高い浮世絵の名品です。制作年代、版元印、保存状態、来歴資料が揃うことで真の価値を発揮し、浮世絵コレクターや美術館、日本文化研究者から今後も高く評価され続けることでしょう。
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