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安藤緑山(あんどう りょくざん、1902–1974)は、近代日本を代表する象牙彫刻家の一人です。本作「象牙りんご」は、実物大に近いりんごの造形を象牙に彫り出した作品で、緑山の緻密な技巧とデフォルメを組み合わせた卓越した造形美が光ります。茶席の意匠香合や飾り物として用いられ、骨董市場でも高い評価を受けています。
緑山は京都生まれ。京都美術工芸学校で彫刻を学び、1920年代に象牙彫刻に転身。江戸期の根付師や明治期の工芸家に師事しながら独自の作風を確立。昭和初期には帝展や日本美術展覧会で受賞を重ね、戦後も日展会員として活躍しました。晩年まで象牙を主素材とし、その温かみある艶と彫りの深さを追究しました。
象牙は密度が高く硬度もあるため、細部まで彫刻可能な希少素材です。緑山は象牙本来の白色と微細な年輪を活かし、表面を滑らかに磨き上げながら、部分的にツヤを抑えた「半艶仕上げ」を多用しました。本作でもりんごの果皮の微妙な凹凸やへた部の繊維質まで写実的に表現しています。
りんごは豊穣や再生を象徴する吉祥図として古くから文様に用いられます。緑山の「象牙りんご」は、円形の果実が持つ柔らかなフォルムを忠実に再現しつつ、果皮のヘタ部分をデフォルメした流麗な曲線でまとめることで、静謐かつユーモラスな印象を与えます。見る角度で表情が変わる意匠が魅力です。
制作はロストワックス法ではなく、象牙原材を直接ノミや小刀で荒彫り→中彫り→仕上げ彫りの順に加工。彫刻後は紙ヤスリで滑らかに整え、最終的に柘植や鹿角のヘラで磨き込み、専用の研磨剤で艶出しします。微細な粉塵が発生するため、当時は手作業で防塵環境を整えながら作業を行いました。
安藤緑山作の小型象牙彫刻(果実モチーフ)は、保存良好・作家銘完備で50万~120万円が相場。大型作品や複雑な多色彩象牙象嵌を伴うものは150万~300万円、来歴不明や傷み有りの場合は20万~50万円で取引されることが多いです。
象牙は乾燥に弱く割れを生じやすいため、湿度50~60%、直射日光やエアコン風を避けた環境で保管。埃は柔らかな布や筆で軽く払い、化学薬品を使わず乾拭きのみでメンテナンスします。長期間展示しない場合は、共箱に仕舞い、乾燥剤を同梱すると良好に保てます。
安藤緑山作「象牙りんご」は、象牙素材の特性を最大限に引き出した彫刻技術と、吉祥図としての意匠を融合させた希少な骨董品です。作家銘、素材、彫技、仕上げ、保存状態、来歴の六要素が揃うことで真の価値が発揮され、今後もコレクター市場で高い評価を維持し続ける逸品と言えるでしょう。
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