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朱泥花瓶は、中国・宜興窯で製作される紫砂(しさ)茶器の一ジャンルで、酸化鉄を多く含む陶土を用いて赤褐色の素地を発色させたものです。花入として日本の茶席や室内装飾に取り入れられ、朱泥の飴色に深みを増す経年変化が鑑賞者を魅了します。骨董品としては、制作時代、作家銘、朱泥の発色具合、造形、保存状態などが評価の要となります。
宜興紫砂は宋代(10世紀)に起源を持ち、明・清朝時代に茶道との結びつきが深まりました。康熙年間(17世紀)に朱泥が確立し、乾隆期(18世紀)には中国皇帝の趣味を反映した優品が生産されました。日本では江戸中期以降に輸入され、茶道具として重用されるとともに文人趣味の陶芸コレクションにも加えられました。
朱泥素地は、黄土に酸化鉄を混ぜた陶土を原料とし、撹拌と熟成を数度繰り返した後、轆轤または手捻りで成形します。素焼後、高温(約1,200~1,300℃)で還元焼成を行うことで、酸化鉄が赤褐色に変わり、焼成後は貫入(かんにゅう)が生じて飴色の艶を帯びます。釉薬を用いない「素焼朱泥」が主流ですが、薄い透明釉を用いる場合もあります。
形状は筒形、瓜型、鼓形など多様で、口縁の反り具合や肩の張り、胴部の流麗な曲線美が造形的魅力を加えます。装飾は最小限に留め、鉄製摘みや銀象嵌のポイントが添えられることがあります。作家性を示す款識(書銘)は底部に刻まれるほか、外側に落款を朱文で入れる例もあります。
清朝乾隆期の古手朱泥花瓶で無傷・共箱付きの優品は300万~800万円。乾隆写しや近代作家物は50万~200万円、使用痕や小補修ありの場合は30万~100万円が相場です。作家名や特注意匠のある一点物はさらに高額取引されることがあります。
朱泥花瓶は急激な温湿度変化を避け、室温20℃前後・相対湿度50~60%を保つ環境で管理します。直射日光やエアコン風による乾燥を避け、埃は柔らかな筆で優しく払います。金属摘み部分は錆止めを行い、共箱に収める際は緩衝材を敷いて衝撃を防止してください。
朱泥花瓶は、素地と釉薬を駆使した朱泥技法、造形美、経年変化の味わい、作家銘の五要素が揃うことで真の骨董価値を発揮します。茶道具としての実用性と工芸品としての美術的魅力を併せ持ち、今後もコレクター市場や美術館で高く評価され続ける逸品と言えるでしょう。
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