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河井寛次郎(かわい かんじろう、1890–1966)は、日本の陶芸界を代表する人間国宝(重要無形文化財「釉薬」保持者)であり、民藝運動の中心的存在でした。本作の湯呑は、寛次郎の自由で素朴な造形感覚と釉薬実験の成果が結実した逸品で、手取りの心地よさと土味を活かした厚みある造形、独特の釉調が魅力です。骨董的には作家銘、釉薬の種類と表情、素地の質感、造形の個性、保存状態、来歴資料が評価のポイントとなります。
河井寛次郎は京都・五条坂の陶家に生まれ、渡米・帰国後に柳宗悦らと民藝運動を推進。1920年代以降、自ら登窯を築き、型や轆轤に縛られない独創的な造形を追求しました。土と赤松灰のほか、各地の土や釉薬原料を自家採取し、釉薬の色調・テクスチャーを自在に変化させる手法を確立。日常使いの器を芸術に昇華させました。
本作湯呑は、胴部がやや丸みを帯びた筒形で、口縁はゆるやかに内振り。手捻りや轆轤による成形跡が残り、釉薬の厚みや流れにより表面に起伏が現れています。寛次郎は「形は手が喜ぶことを第一とする」と語り、持つ者の手にしっくり馴染むサイズと曲線美を追求。高台は小ぶりに、器全体を手のひらで包み込むような設えです。
釉薬は赤松灰を主体とする灰釉で、酸化・還元焼成の違いにより青灰色、鉄錆色、緑灰色など多彩な発色を見せます。本作は還元焼成による鈍い青灰釉が主体で、口縁から胴にかけて釉薬が厚く垂れ、複雑な縞模様と流下痕を残しています。高温で溶融した釉薬の気泡痕や結晶化の跡が「天目」に通じる独特の景色を生み出します。
河井寛次郎作の湯呑は、無傷・共箱付で一客20万~40万円、景色の個性が際立つ優品は50万~80万円に達します。共箱欠損や小チップありの場合は価格が70%程度に下がることが一般的です。
陶磁器は急激な温度変化に弱く、電子レンジ・食洗機は避けること。使用後は中性洗剤で手洗いし、柔らかな布で水気を拭き取り、十分に乾燥させてから共箱に納めます。直射日光や高温多湿を避け、湿度50%前後・室温20℃前後で保管すると、釉薬の経年変化を美しく楽しめます。
河井寛次郎作湯呑は、作家銘、造形、釉薬景色、素地、保存状態、来歴資料の六要素が揃うことで真の骨董的価値を発揮します。民藝運動の精神を体現し、土と炎との対話が生み出す自然美を楽しむ逸品として、茶陶コレクターや陶芸愛好家から長く高い評価を受け続けるでしょう。
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