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本稿では、漆器製の香筒二点――一つは「ぐり」と呼ばれる黒漆を重ね出した伝統技法品、もう一つは竹地に漆を塗り込んだ趣向品――の骨董的価値を解説します。香筒は線香や香木片を収める小型容器であり、茶道や香道で用いられる実用具であると同時に、装飾性を競った工芸美術品でもあります。時代背景や技法、保存状態が評価を左右する重要な要素となります。
「ぐり」とは黒漆を数十度にわたり薄く塗り重ね、丹念に研ぎ出して微細な地紋を浮かび上がらせる技法です。このぐり香筒は外面に螺鈿や金粉を一切用いず、漆の艶と研ぎ出しの微妙な凹凸だけで深い趣を演出。蓋と本体の継ぎ目は極限まで合わせ、漆継ぎの補修跡も見当たらない完品です。時代は江戸後期と推定され、使い込まれた飴色の漆肌が魅力を一層高めています。
竹香筒は、節ごとに輪切りし内外に下地漆を塗り重ね、最上級の蒔絵や截金装飾を施すことで生まれる逸品です。本作は明治期の作とされ、節目の凹凸を活かした漆下地に金銀の薄絹蒔絵で流水文や桜花文を配しています。竹地の竹味(しなやかな繊維質の質感)と漆の深みが絶妙に調和し、洋館や和室を問わず馴染む意匠です。
ぐり香筒には欅(けやき)や栃(とち)など堅木を用い、木地固め漆→黒漆→研ぎ→また黒漆→研ぎの工程を数十回繰り返します。竹香筒は孟宗竹を輪切りにし、竹表面を竹酢液で下地処理後、植物性漆を十数度にわたり塗り重ね、乾燥と研ぎを交互に行います。蒔絵は本金粉・銀粉を漆面に蒔き付けて研ぎ上げ、截金は金箔を細く裁断して貼り込む繊細な加工を要します。
漆器は乾燥と紫外線に弱く、湿度40〜60%、直射日光・エアコン風を避けた場所に保管します。竹器は乾燥によるヒビ割れ防止のため定期的に竹酢液での拭き上げを行い、漆面には指紋や汗が付着しないよう綿手袋着用を推奨します。展示や使用後は柔らかな布で埃を払い、共箱に戻して防湿剤と共に保管してください。
ぐり技法による黒漆香筒と竹地漆器の香筒は、共に日本の漆工芸と竹工芸の粋を結集した逸品です。制作年代、技法の完成度、素材の保存状態、来歴資料の有無が評価を決定し、完品は煎茶席や香席のみならず骨董コレクター市場でも高額取引される価値を有します。今後も伝統工芸の重要文化財として再評価が進むことでしょう。
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