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烏帽子兜(えぼしかぶと)は、武家が儀式や行列などに用いた特殊な形状の兜で、平安~室町期に公武両用の礼装として誕生しました。兜鉢(かぶとばち)上部を左右に広げて先端を尖らせ、平安装束の烏帽子(えぼし)を模した独特のフォルムが特徴です。実戦用の兜とは異なり、薄手の鉄板に黒漆をかけた軽量構造で、儀礼性と装飾性を重視した意匠兜として位置づけられます。
烏帽子兜は室町時代中期以降、公家や侍が参賀・行幸の際に礼装として着用したことに始まります。特に足利将軍家の武具調度に取り入れられ、華美な装飾と格式を併せ持つ姿が公武交渉の場で重用されました。江戸時代には武家社会の安定とともに儀式用兜としてさらに洗練され、武家屋敷の飾り兜や雛祭りの具足飾りとしても受け継がれました。
兜鉢は浅めの半球形または楕円形で、頭頂から前面にかけて緩やかに傾斜し、後頭部は水平にカット。左右には薄い鉄板を張り出し、先端を尖らせて烏帽子の前後立体的な曲線を再現します。鉢縁には金具を打ち込み、黒漆で全体を塗装。面頬(めんぼお)や吹返(ふきかえし)を省略し、簡素な線の美が礼装兜の雅を演出します。
鉄板は厚さ数ミリで、叩き出し成形後に鋲(びょう)留めや継ぎ目を漆喰で埋め、錆止め漆を数回塗り重ねます。装飾金具には真鍮や赤銅を鍍金し、小さな唐草文や家紋を浮かび上がらせる手法が見られます。製作は武具師や宮廷工房が分担し、武具師の名や工房印が鉢裏に刻まれるものもあります。
完品かつ来歴明確な室町期作は時価で500万円以上、桃山~江戸初期の上級礼装兜は300万~500万円。江戸中期以降の写し品や小型飾り兜は100万~300万円、補修跡や漆剥落が見られるものは50万~100万円が相場となります。
鉄材質の武具は湿度変動や直射日光、エアコン風を避け、常温・相対湿度50%前後で保管してください。漆面は乾いた綿布で優しく拭き、補修跡がある場合は専門修理師による定期的なメンテナンスを推奨します。展示はクッションマウントを用い、落下や衝撃対策を講じることが重要です。
烏帽子兜は、武家の儀礼文化と公家の雅を融合させた礼装兜の典型です。制作年代、漆調、金具意匠、保存状態、来歴資料の五要素が揃うことで骨董的価値が最大化し、優品は博物館級コレクションや有力コレクターの注目を集め続ける逸品です。
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