Menu
蒔絵かんざしや蒔絵櫛は、漆塗り下地に金銀粉や螺鈿を蒔き付けて蒔絵文様を描き出した装飾櫛・簪(かんざし)です。江戸時代中期以降、女性の髪飾りとして広く愛用され、身分や流行を示す装身具として発展しました。これらは伝統工芸技法と日本女性の髪型文化が融合した逸品で、現在は骨董市場でも高い評価を受けています。
蒔絵かんざしは、元来は髪型をまとめる実用品でしたが、次第に装飾性が重視されるようになり、江戸中期には武家・町人問わず流行。金粉や銀粉の豪華な文様、貝殻を用いた螺鈿のきらめきで、冠婚葬祭や茶会、舞踊などの場面に応じたデザインが誕生しました。明治維新以降は日本髪の廃絶に伴い衰退しますが、美術工芸品として骨董家の間で再評価されています。
蒔絵は、まず漆の下地に砥の粉を混ぜた「地粉漆」を塗り固めるところから始まります。次に、文様を描いた漆面に金粉・銀粉を蒔き、乾燥後に研ぎ出して図柄を浮かび上がらせます。螺鈿を加える場合は、貝殻片を漆で貼り付け、同様に研ぎ出して虹彩の輝きを加えます。櫛・かんざし本体は鼈甲、象牙、黒檀などの高級素材が用いられることが多く、木地製品にも漆塗りが施されます。
絵柄は四季折々の花鳥風月をモチーフに、桜、菊、梅、雁、流水、蝶、唐草などが定番。格式の高い金地蒔絵から、可憐な色彩蒔絵、螺鈿をアクセントにしたものまで多彩です。かんざしは花簪(はなかんざし)や簪十種など形状も様々で、髷の位置や用途(正装・普段使い)に合わせて選ばれました。
蒔絵櫛は櫛歯が細かい「真鍮櫛」や板状の「平打ち櫛」、大型の「片側櫛」などがあり、櫛歯と本体の一体成形技術が見どころです。蒔絵文様は櫛の表裏両面に施されることがあり、髪に挿した際に見える角度を計算して文様配置が工夫されます。木地や鼈甲の透明感を活かし、漆の黒色とのコントラストで金銀が際立ちます。
漆器は乾燥や直射日光・高温多湿に弱く、湿度50%前後・温度20℃前後の環境で保管してください。鼈甲や象牙は急激な乾燥で割れやすいため、共箱や仕覆に入れ、防湿剤を併用すると良いでしょう。使用時は汗や皮脂が付かないよう手袋を着用し、柔らかな布で優しく拭くことを推奨します。
蒔絵かんざし・櫛は、日本の漆工芸と装身文化が融合した骨董品の代表格です。技法の精緻さ、素材の希少性、来歴が評価を左右し、完全品は高額取引されます。現代では装飾具としての用途を超え、美術工芸コレクションや展示品としても高く評価され、今後も注目され続けることでしょう。
鑑定のご相談、
お待ちしております!
多くの士業関係の方からも御依頼を頂いております。お気軽にご相談ください。