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蒔絵重香合(まきえおもいこうごう)は、茶道具や香道具として用いられる小型の香合を重ね式(二段または三段)に仕立て、外側に蒔絵で装飾を施した工芸品です。蓋物として香木や末香を収める実用性と、蒔絵の絢爛な意匠が併存し、茶席や香席に格式と華やぎをもたらします。骨董品としては、蒔絵技法、下地や木地の質、作者・窯元銘、意匠構成、保存状態、来歴資料の六要素が評価の要点です。
重香合は江戸時代中期以降に茶人・香道の愛用具として発展。江戸中期の千家家元や一部大名家で用いられ、薄茶道具とともに蒔絵師が協働して意匠を考案しました。近代には美術工芸品としての評価も高まり、明治・大正期には美術展で出品される例も見られます。
主な木地には栗・桜・欅(けやき)など乾燥硬木を用い、木地成形後に布着せや砥粉漆下地を数層施して研ぎ出し、滑らかな表面を作ります。下地の厚みや研ぎ仕上げの均一性が蒔絵の仕上がりに直結し、骨董的評価で重視されます。
表面装飾は、漆で下絵を描き、金粉・銀粉を蒔いて留める「平蒔絵」が基本。文様の輪郭を高く盛り上げる「高蒔絵」や、漆で文様を凹ませて粉を埋め込む「沈金蒔絵」、螺鈿を組み合わせた「螺鈿蒔絵」など、複數の技法を層状に用いることがあり、高度な蒔絵師の匠技が評価されます。
意匠は四季草花、桜・紅葉・菊・松竹梅、鶴亀・鳳凰など吉祥文を重ね分ける構成が一般的。二段または三段の筥形に合わせ、上段から下段へと物語的な連続文を配す「物語蒔絵」や、各段に同一文様を繰り返す「連続文様」も見られ、視覚的なリズムと統一感が評価されます。
底裏や内底に蒔絵師名、あるいは茶人家元の好みを示す「家元好」と書き付ける例があります。有名蒔絵師(輪島慶塚、宮田宗典など)の款識があれば、骨董的価値は飛躍的に向上します。また、共箱の箱書き筆者(茶人や美術家)の署名も来歴証明として重視されます。
漆器は乾燥や湿度変化で割れや蒔絵浮きが生じやすく、保存状態は貴重な評価要素。蒔絵金粉剥落、漆層のヒビ、布着せ下地の浮き、木地の歪みなどの有無を確認。軽度の欠損は「直し」として許容される場合もありますが、過度な補修や後補蒔絵は価値を下げる傾向にあります。
共箱・外箱の箱書き、購入証明書、展覧会図録掲載履歴などが揃うと真贋判定と来歴証明が容易となり、骨董価値を高めます。茶人家元や香道流派の所蔵記録、旧蔵家譜を示す資料がある場合は更に評価が上がります。
無銘の実用品級蒔絵重香合は20万~50万円、優れた高蒔絵や螺鈿組み合わせ品は80万~150万円、有銘名工作や来歴明確品は200万~300万円以上、茶人家元好の逸品は500万円前後の高額となる例もあります。
漆器は直射日光・乾燥エアコン風を避け、湿度50~60%・室温20℃前後の安定環境で保管。埃は柔らかな刷毛で軽く払い、化学薬品や水拭きは厳禁。定期的に専門家による表装点検や蒔絵補修を受けることで、長期にわたって美しさを維持できます。
蒔絵重香合は、木地・下地・蒔絵技法・意匠・保存状態・来歴資料の六要素が揃うことで骨董的価値を発揮します。香席や茶席に格式と華麗さを添える逸品として、茶道具・香道具コレクターや漆工芸愛好家から今後も高い評価を受け続けることでしょう。
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