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薩摩焼花瓶とは、鹿児島県を中心に17世紀末から製造されてきた陶磁器で、その繊細な細描(さいびょう)や高緻な金彩装飾が特徴です。侘び・寂びの美意識を尊ぶ日本の伝統工芸として重用され、当初は豪華な献上品や輸出向けの高級品として流通しました。独特の乳白色地に金泥や多彩色で絵付けを施した装飾は、花瓶の曲線に沿って流れるように描かれ、花を活けた時に文様と花材が一体となって見える美しさを演出します。
薩摩焼は1602年に朝鮮の陶工・李朝功により種子島で始まり、島津家の庇護を受けて発展しました。17世紀には絵唐津風の施釉が試みられ、その後「古薩摩」と呼ばれる厚手で素朴な外観が成立。江戸時代後期には絵画的要素を強めた「金襴手(きんらんで)」様式が確立し、花瓶は狩野派や琳派の画題を取り入れた豪華絢爛な意匠で輸出市場でも高い評価を得ました。
花瓶の形状は筒形、壺形、三足台付など多彩で、口縁や肩部に金彩の帯状装飾(帯文)がめぐらされることが多いです。絵付けは扇面図、四季花鳥図、風景山水図など、屏風絵を思わせる大画面構成が特徴的。金泥による細線描写と多色の色絵具が重層的に重なり合うことで、奥行き感と煌びやかさを兼ね備えます。
素地は当地産の陶土を用い、輪積み成形や型押しで形を作成。素焼きの後、透明釉をかけて本焼きし、次いで絵付け工程に入ります。金襴手の場合は、金泥を主とする下絵付け後に色絵具を重ね、さらに上から金彩を施して再度焼成。繰り返し焼成することで金彩が釉面に深く定着し、美しい光沢が生まれます。
真作鑑定では、裏底の「薩摩」銘や窯印の有無、金彩の痩せや煤(すす)状の古色などを確認します。金泥の盛り上がり具合や下絵の輪郭線の歪み、色絵具の定着状態から、手描きか量産かを識別。胴部の貫入(かんにゅう)の入り方や素地の質感、さらに仕覆や共箱の書付が来歴を裏付ける重要資料となります。
古薩摩(17~18世紀)や金襴手初期の逸品は、保存状態が良好であれば数十万~数百万円の価格帯で流通します。明治期以降の復刻品や近代の大量生産品は数万円程度ですが、名工の時代作品や名家伝来品はオークションで高額落札例が目立ちます。希少性、状態、来歴書付の有無が価格を左右する大きな要因です。
薩摩焼花瓶は、その豪華な装飾と歴史的背景がコレクター心をくすぐります。一点ごとに異なる細密画のような絵付けは、骨董市場だけでなく美術館でも取り上げられ、鑑賞価値が極めて高い。季節の草花を活けることで本来の用途を楽しみながら、工芸品としての芸術性も堪能できる一石二鳥の逸品です。
金彩部分は擦れや衝撃で剥落しやすいため、布張りの箱やふわりとした緩衝材で包んで保管してください。急激な温湿度変化は貫入に汚れを招くため、室温20℃前後、湿度50%前後の安定環境が望ましい。展示時は直射日光を避け、定期的に柔らかい筆や布で優しく埃を払う程度のメンテナンスに留めましょう。
薩摩焼花瓶は、日本の陶芸史を彩る代表的な骨董品です。歴史的価値、絵付けの繊細さ、金彩の豪華さを併せ持ち、真贋鑑定には高度な専門知識が求められます。購入や鑑定を検討する際は、裏底の銘、金彩の状態、貫入の様子、来歴書付を総合的に評価し、信頼できる鑑定士や専門店の意見を仰ぐことをおすすめします。
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