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螺鈿細工(らでんざいく)は、貝殻の真珠層を薄く磨き出して模様を嵌め込む漆工技法で、古くは奈良時代から中国・朝鮮を経て日本に伝来しました。平安期には寺社の造営装飾に用いられ、鎌倉期以降は武具や蒔絵と併用した高級装飾として武家や公家の間で珍重されました。江戸時代には化粧櫛や笄にも螺鈿が取り入れられ、装身具としての芸術性とステータスを示す指標となりました。
櫛の胎地には赤銅・金属・漆塗り下地が用いられ、下地に漆を塗り重ねて接着性を高めます。貝殻はアワビ・夜光貝などが使われ、文様に合わせて薄く裁断し、漆面に埋め込んだ後、磨き出し→上塗りを繰り返し、表面を滑らかに整えます。
典型的な文様には、流水に鶴や亀、桜や菊の花びらが螺鈿で表現され、光の角度で浮かび上がる輝きが魅力です。身分の高い女性用には金粉蒔絵と組み合わせ、蒔絵の金色と螺鈿の虹彩が重層的に美を演出します。
笄は髪をまとめる装飾具で、細長い棒状の金属に螺鈿や蒔絵を施したものが多く見られます。帯留めや鏡台の飾りとしても転用され、女性だけでなく武家男性の装剣具としても携帯されました。
螺鈿のみのシンプルなものから、螺鈿文様の周囲に高蒔絵や研出蒔絵を加えた豪華な作例まで幅広く、螺鈿のきらめきが茶室や床の間の趣を一層引き立てます。
螺鈿細工は漆と貝殻が主素材のため、直射日光や湿度変化を避け、室温20℃前後・湿度50%前後を保つ場所で保管します。展示や使用の際は、乾いた柔らかい布で軽く拭き、指紋や汗が付かないよう手袋を着用すると良いでしょう。
螺鈿細工の櫛・笄は、日本漆工と貝細工が融合した高度な工芸品であり、文様の美しさと素材の輝きを併せ持つ逸品です。作者銘、共箱、保存状態が価値を左右し、優品は骨董市場で高額取引の対象となります。今後も伝統技法を受け継ぐ作品として、コレクターや美術愛好家から注目され続けるでしょう。
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