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行者神菩薩画は、修験道の行者(役行者や役小角)を尊ぶ信仰と、観音菩薩の慈悲を融合させた仏画です。修験の神秘性と菩薩の救済思想を同時に表現する図像として、江戸時代以降に寺社・修験院で制作されました。掛軸や巻物装軸として用いられ、信仰の限りなき加護を願う人々に親しまれてきました。
平安末期から鎌倉期にかけて修験道が隆盛すると、山岳信仰と仏教が融合した修験本尊図が生まれました。室町以降、山伏姿の行者像に観音菩薩の持物や印相を取り入れた「行者神菩薩画」が各地の修験寺で制作され、江戸期には民間への普及も進みました。戦前までは修験道の礼拝具として崇められ、近年は収集家や仏画研究者の注目を集めています。
画面は絹本や紙本に墨画手描きで下絵を描き、岩絵具や膠彩(にかわさい)で彩色を加えます。行者の衣や法螺貝には金泥・銀泥を蒔き、山岳霊場の荘厳さを表現。輪郭線の筆致は禅僧や絵師の系統によって異なり、流派や作風の識別材料となります。また、表具には茶掛け・床掛けに適した裂地が用いられ、共箱や箱書きが来歴を伝えます。
中央に山伏姿の行者が立ち、頭上に蓮華台上の観音像を配するものが典型です。行者は錫杖や法螺貝を手にし、左手に念珠、足元には山岳を象徴する岩石文様が描かれます。観音は施無畏印を結び、その慈悲の視線が行者と観る者を包みます。画面全体に山林の深い緑や夕霞の赤が重層的に塗られ、霊場の神秘感を演出します。
江戸前期の絵師作や著名流派の作品は200万~500万円、江戸後期の良好保存例は100万~200万円が相場。幕末以降の通俗的写しや保存難ありのものは30万~80万円程度となります。来歴が明確で共箱・伝来札が揃うと1.5倍以上のプレミアムが付くことがあります。
仏画は湿度変動や紫外線に弱く、室温20℃前後・湿度50%前後で管理。直射日光やエアコン直風を避け、定期的に軸を緩めて通気。埃は柔らかな刷毛で払うか、UVカットの額装やケースに収めるのが望ましいです。虫損や裂地劣化がある場合は、専門家による裏打ち替えや表具修復を検討してください。
行者神菩薩画は、修験道と観音信仰の交錯を示す貴重な仏画です。署名・賛文、画面・表具の状態、技法の完成度、来歴資料、希少性の五要素が揃うことで骨董的価値が飛躍的に高まります。信仰具としてだけでなく、芸術作品としても高く評価され、今後も研究家やコレクターから注目され続ける逸品と言えるでしょう。
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