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釜師・角谷一圭(かどや いっけい、1908–1997)は、昭和期から平成期にかけて茶道具鉄器の鍛金技術を極め、鉄製茶釜や蓋置のみならず「釣かん」「大かん」と呼ばれる茶釜吊り具の名作を残した人間国宝(重要無形文化財保持者)です。釣かん・大かんは茶釜を炉や風炉にかける重要な役割を果たし、一圭作は機能美と造形美を高次元で両立させています。
釣かん(釣鐶・吊り環)は、炉や風炉の天井木枠や掛桁に取り付け、茶釜を吊り下げるための鉄製環金具です。角谷一圭作の釣かんは、環状部と吊り金具の継ぎ目を極限まで溶接跡を消し、なめらかな曲線で仕上げることで、鉄肌の質感と均整の取れたフォルムが特長です。
大かん(大環)は、釜を吊るす際に用いる大ぶりの環金具で、釣かんより径が大きく重量級の茶釜にも対応します。一圭の大かんは径や厚みのバランスに優れ、単なる機能品ではなく、黒漆と銀象嵌で名残を添えた装飾性の高さが評価されます。
素材は丹念に鍛え上げた厚手の鉄板。轧き(うす板加工)後、鍛鎚(かなたち)で粗成形→ヤスリで仕上げ→ヘラ磨きの工程を経る「鍛金打ち出し」技法を基盤とします。最後に黒漆(呂色)を数度塗り重ね、乾漆仕上げで防錆と漆の艶を定着させることで、鉄の無機質感と漆の温かみを融合させています。
一圭の釣かん・大かんは、シンプルな円環形ながら、鉄肌の打ち出し目(つちめ)を残すことで光を受けた際の陰影に味わいを生み出します。また、環部の外周に銀象嵌で細い線文をあしらうなど、要所にアクセントを加え、炉縁や道具組と調和する意匠設計が光ります。
角谷一圭作の釣かん・大かんは、作家銘・共箱・証書完備の良品で80万~150万円が相場。使用痕や小キズがある場合は40万~80万円、共箱欠や補修歴があるものは20万~40万円程度となります。銀象嵌の有無や装飾の精緻さでも価格が変動します。
鉄製茶道具は湿気や温度変化に敏感です。使用後は湯気や水滴を完全に拭き取り、乾燥させたうえで漆表面を柔らかな布で優しく拭いてください。保管時は湿度50~60%、直射日光を避け、共箱に収めて桐箱内を乾燥剤とともに保管すると良好に保てます。
人間国宝・角谷一圭作の釣かんと大かんは、鍛金技術の粋と漆表現の調和が生む茶道具の至宝です。作家銘、鉄肌・漆艶、環形の均整、装飾の完成度、保存状態、来歴資料の六要素が揃うことで骨董的価値が最大化し、今後も茶道具コレクターや工芸愛好家から高い評価を受け続ける逸品と言えるでしょう。
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