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釜師・角谷一圭(かどや いっけい、1912–1997)は、江戸千家をはじめ茶道界で高く評価された名工です。特に鉄製茶釜用の蓋置(ふたおき)を数多く手がけ、その端正な造形と鉄肌の美しさは、茶席の趣を深める道具として愛用されてきました。本作「鉄蓋置」は、一圭の代表作である菊座形(きくざがた)をベースにした小振りの品で、骨董品としてもコレクターから人気があります。
一圭は京都生まれ。金工師・初代角谷一圭のもとで鍛金技術を学び、昭和初期より自ら工房を構えました。鉄釜、鉄瓶、蓋置を手がける一方、炉縁や茶杓製作にも挑むなど、幅広い茶道具を制作。戦後は茶道家との交流を深め、江戸千家、裏千家など家元好みの意匠を取り入れつつ、自身の美意識を反映したシンプルかつ端正なデザインで知られます。
茶釜の蓋を開閉時に掛けて置くための器具で、茶席の美観と実用性を兼ね備えます。鉄蓋置は釜の蓋摘みを掛ける部位の保護と位置決めに用いられ、蓋を清潔に保つ役割も果たします。一圭の鉄蓋置は、座を安定させるための底部形状や、蓋摘みの収まり具合にまでこだわり、道具としての完成度が高いことが特徴です。
素材は厚口の鉄板。鋳造ではなく、鍛金(たんきん)による打ち出し成形が基本です。粗彫り→ヤスリ仕上げ→ヘラによる磨き出しを繰り返し、「鎚目(つちめ)」と呼ばれる表面の微細な打撃跡を残すことで、鉄肌の奥深い陰影を生み出します。最後に黒漆(玄々漆)や呂色(ろいろ)仕上げを施し、錆び止めと色調の安定を図ります。
本作は菊座形をモチーフに、座面を緩やかな凸面に形成。座縁は反り上げられ、菊の花弁を連想させるリズミカルな曲線を描きます。底部には鈎(かぎ)状の脚が三本打ち出され、安定性と軽快さを両立。全体のプロポーションは小ぶりながら緊張感があり、鉄の重厚感と緻密な造形が絶妙なコントラストを成しています。
角谷一圭作の鉄蓋置は、状態良好・作家銘明瞭品で30万~60万円が相場。小キズや経年錆がある場合は15万~30万円、来歴不明や補修歴のあるものは10万円前後~20万円で取引されることが多いです。希少意匠や特注サイズ品は80万円以上となる例もあります。
鉄製品は湿気や直射日光、急激な温度変化を避け、湿度50~60%の環境で保管します。使用後は乾いた柔らかな布で水分や茶跡を拭き取り、錆を防ぐために軽く拭く程度の乾布拭きを行います。箱に収める際は緩衝材を敷き、脚部への衝撃を防止するとよいでしょう。
角谷一圭作の鉄蓋置は、釜師としての伝統技法と作家個性が融合した逸品です。作家銘、鉄肌、造形、漆仕上げ、保存状態、来歴の六要素が揃うことで真の骨董的価値が発揮され、茶道具コレクターや金工愛好家から今後も高い評価を受け続けることでしょう。
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