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銅器製の聖観世音(しょうかんぜおん)像は、日本の仏教美術を代表する鋳銅彫刻の一つで、慈悲深い観音菩薩の姿を鋳造で写実的に再現した骨董品です。合掌姿や施無畏印(せむいいん)を結んだ手、蓮華座や火炎光背を伴う荘厳な佇まいが特徴で、寺院の本尊や祠堂の脇侍として用いられてきました。
仏像彫刻において銅製品が盛んになるのは奈良時代末期から平安時代初期とされますが、聖観世音像が一般に流通するようになるのは鎌倉時代以降。宋銅や高麗銅の影響を受けながら日本独自の様式が育ち、室町・桃山期には地方の鋳物師による諸作が各地の寺社に伝えられました。江戸時代には民間向け小型像も制作され、守護仏や家内安全の信仰具としても普及しました。
主に失い型鋳造(ロストワックス法)を用い、蝋型の上に鋳型を築き、蝋を溶かし出した後に銅を流し込む工程を数度に分けて行います。鋳上がった素地は打ち出しや彫金、彫刻を施して細部を整え、金鍍金や色絵を加えて表現を豊かにします。銅合金に錫(すず)や鉛を混ぜることで鋳造性を高め、長年の経年変化で緑青(ろくしょう)を帯びた独特の色合いが得られます。
聖観世音像は、頭上に仏面を象る十一面観音形から、柔和な表情の一面形まで多様。体躯は細身で衣文線(えもんせん)の流れが滑らか、手は施無畏印(恐れを取り除く印)と与願印(福徳を授ける印)を結ぶ二印相を示すのが典型です。蓮華台座や光背は別鋳・別付けが多く、尾張形や京金工との合作品には金線象嵌(ぞうがん)を施す例もあります。
鎌倉期~室町期の古手無傷像は時価で数百万円~千万円超。桃山~江戸初期の地方鋳物師作で保存良好品は100万~300万円、江戸後期~近代作は30万~100万円が相場です。緑青の色調や鍍金の残存度が価格を大きく左右します。
銅像は緑青や白錆が進行しやすいため、湿度50~60%、室温20℃前後の環境が理想。直射日光やエアコン風を避け、乾いた柔らかな布で埃を払います。緑青を落とす際は化学薬品ではなく、亜鉛クリームや特殊レジンワックスで表面を保護すると長期保存に適します。
銅器製の聖観世音像は、鋳造・彫刻・鍍金の技術が結実した宗教工芸品です。鋳肌の表情、彫技の写実性、鍍金や彩色の残存、款識・来歴、保存状態の五要素が揃うことで真の骨董的価値を発揮し、仏教美術コレクターや寺院所有者から高い評価を受け続けています。
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