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錫製茶托(すずせい ちゃたく)は、煎茶道具や喫茶作法に欠かせない小皿で、銀や銅と異なり独特の柔らかい銀白色が特徴の錫(すず)を素材としています。錫は軟らかく加工しやすいため、薄造りで軽量かつ丈夫な茶托が作れる一方、年月を経て鈍い艶を帯びる「古味」が魅力です。茶托は茶碗を置く役割だけでなく、茶席の調度としての美意識を支え、制作者や産地、意匠、保存状態などが骨董的価値を大きく左右します。
錫器は、中国・越前(福井県鯖江)や能登(石川県)、佐渡(新潟県)など錫鉱山に近い地域を中心に江戸時代から盛んに作られ、煎茶が流行した江戸後期には文人趣味の茶席に重用されました。錫製茶托は、煎茶席の精緻で軽妙な美学に合わせ、木製や漆器と異なる金属質の光沢で茶席を引き締める逸品として愛用されました。
主素材の錫は融点が低く、砂型鋳造や鍛造、打ち出しによる成形が可能です。茶托の多くは、型に錫を流し込む「鋳込み」によって胴部を得た後、金鎚や旋盤で薄く延ばし、口縁や高台を仕上げます。装飾には打ち出し文様、彫刻、透かし彫り、彫金などが用いられ、作者の技量を反映します。最後に布研磨で表面を滑らかに磨き、器面に薄い布目のような研ぎ跡を残すことで、鈍い光沢を演出します。
茶托の形は丸形が基本ですが、楕円形、角形、菱形、切子形など多様です。文様は植物(桜、竹、菊)、流水、雲龍、幾何学模様、禅宗図案など多岐にわたり、文人好みの唐草透かしや縮緬目打ち(ちりめんめうち)と呼ばれる細かな点打ちが見られる場合もあります。縁回りには銀象嵌や金粉装飾を施し、茶托単体で茶席の見どころとなる作品もあります。
無銘の江戸後期錫製茶托は一客あたり3万~8万円程度が相場です。銘入作家物や産地指定品、打ち出し文様や象嵌装飾が施された優品は一客あたり10万~30万円、共箱付の完全揃い(五客揃いなど)は50万~100万円を超えるケースもあります。保存状態や来歴が明確なものほど高値が期待できます。
錫器は錆びずに耐蝕性が高い一方、衝撃や折り曲げに弱いため、取り扱いは丁寧に行います。使用後は中性洗剤で軽く洗い、水分を拭き取って自然乾燥。乾燥後は柔らかな布で微細な研磨を行い、錫本来の鈍い光沢を保つようにしてください。長期保管時には防錆剤やシリカゲルとともに保管し、直射日光や高温多湿を避けることが重要です。
錫製茶托は、金属工芸としての技術力と茶席を引き立てる意匠性を併せ持つ小茶道具です。産地・作者銘、素材の純度、装飾の完成度、古色の風合い、来歴資料の五要素が揃うことで真の骨董的価値が発揮され、茶道具コレクターや金属工芸愛好家から高い評価を受け続ける逸品と言えるでしょう。
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