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須田剋太(すだ こくた、1906–1994)は、大正末期から昭和・平成にかけて活躍した日本画家・版画家・陶芸家で、懐かしい昭和の風景や郷愁を呼び起こす作風で知られます。「夙川公園」は、彼が昭和中期に描いた代表的な風景画で、兵庫県西宮市の夙川沿い桜並木の春景を、素朴なタッチとやわらかな色彩で表現した一作です。
戦後復興期から高度経済成長期にかけての1950~60年代、都市部の公園や川辺の風景は人々の安らぎの象徴でした。須田剋太は、写真や写生を基に、夙川の桜の名所としての風情を記録的に描写。彼の郷愁画は、失われつつある昭和の暮らしや風物を保存する「文化財」としての意味も帯びています。
本作は、麻紙(または和紙)に岩絵具・群青・緑青などの伝統顔料と墨を用い、岩絵具のマチエールを活かした平坦かつ厚塗りの筆致が特徴。桜の淡いピンクは鉛白や紅花下絵により多層的に表現され、川面や土手は彩色の剥落やクラックが見られるものの、顔料の退色は少なく良好に保存されています。
真作判定では、画面背面の落款「剋太」印と署名筆跡、画布裏の墨書制作年・地名、用紙の漉き痕(楮紙・雁皮紙の判別)、岩絵具の粒状性、額装裏の古裂地や裏打ち替え履歴を確認します。後補の模写は筆致が均一すぎ、岩絵具の粒子感が失われる傾向にあります。
本作品は旧蔵家より直接買い戻された来歴があり、額装は昭和40年代の木製無地框。裏蓋の和紙貼り替えは過去一度行われており、裏打ち替え記録の年次と表装裂地の年代感が来歴証明として役立ちます。
須田剋太の風景画は近年コレクターに人気で、「夙川公園」クラスの中型(F8~F10号)作品は状態・来歴完備で50万~150万円程度が相場。署名・落款・制作年が明確で保存状態良好なものは高値がつきやすく、複数点展覧会出品歴があると更にプレミアが付きます。
「夙川公園」は、須田剋太の「昭和ノスタルジア」シリーズの中でも特に親しまれてきた題材で、桜並木のリズミカルな構図と、やわらかな盛春の光景が鑑賞者に郷愁を呼び起こします。川沿いの道行く人影を省略した簡潔さが情感を演出し、美術館的展示から民家の床の間まで幅広い空間に馴染む逸品です。
岩絵具画は直射日光・極端な湿度変化を嫌います。展示はUVカットガラス越しの間接光、保存は温度20℃前後・湿度50%前後を維持。顔料層の微細クラック部には埃が溜まりやすいため、柔らかな馬毛筆で優しく払い、裏打ちの劣化が見られたら専門表具師による修復を検討してください。
須田剋太「夙川公園」は、昭和の風物を記録し、郷愁を誘う風景画の名品です。画材・技法・署名・来歴・保存状態を総合的に鑑定し、適切に展示・管理することで、その歴史的・美術的価値を次世代へと継承できる骨董品です。
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