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掛軸「紫式部」とは、平安時代の女流文学者・紫式部を題材にした画賛または絵巻の一部を掛軸仕立てにした陶磁器や絵画とは異なる、絵画作品の形式です。屏風絵や絵巻物のワンシーンを切り取ったものや、後世の書画家が紫式部の肖像や『源氏物語』の物語場面を描いたものが流通しています。茶室や書斎の床の間を飾る意匠としても人気が高く、物語の趣を楽しむとともに書画としての美術的価値が重視されます。
紫式部は11世紀初頭に活動した宮廷女官で、『源氏物語』の著者として知られます。江戸時代になると、源氏絵と呼ばれる浮世絵や琳派の画題として取り上げられ、文人趣味を重んじる茶人や書家の間で愛されるモチーフとなりました。明治以降、美術工芸品としての評価が高まり、茶会や雅会で床飾りとして掛軸が用いられるようになりました。
掛軸「紫式部」は、大別して「賛絵(えさん)」と「絵のみ」の二種に分かれます。賛絵では絵部分の下や上に詩歌や物語の一節が書き入れられ、墨跡の美しさと絵画表現の融合が鑑賞ポイントです。絵のみの場合は、金箔や銀泥を背景に用い、衣装の文様や扇面に描かれる源氏香図など、装飾性の高い仕上げが行われます。絵具は岩絵具や胡粉、顔料を用い、金泥や銀泥の煌めきが豪華さを演出します。
本紙(作品部分)は和紙または絹本が用いられ、裏打ちには数回にわたる和紙の重ね貼りで補強が施されます。表装には緞子(どんす)や緑青緞子、紗綾形模様の裂地が選ばれ、軸先は陶製または木製の金具(朱塗・黒塗)が使われることが多いです。軸棒や風帯(ふうたい)の形状、金具の意匠から仕立てられた時代や流派を推測できる場合もあります。
真贋のポイントは、まず「絵画部分」の筆遣いと「賛」の筆跡比較です。明治期以降の作家では、落款や印章(雅印)の種類、墨の色味が均一かどうかを確認します。本紙の和紙や絹の経年変化(黄変・シミ・折れ目の自然さ)も重要で、後補の裏打ちとオリジナル裏打ちの違いを見極めることで保存履歴が推測できます。また、表装裂地の裂傷や色落ちの程度、軸先金具の錆・変形などから使用年数を評価します。
掛軸「紫式部」は、作者や時代、作風によって価値が大きく変動します。江戸中期以前の流派作品や、中村不折、富岡鉄斎など明治の文人画家の作は市場評価が高く、状態の良いものは数十万~百万円を超えることもあります。伝世の源氏絵切断品や、名家伝来の床飾り用掛軸はコレクター間で希少品扱いされ、オークションでも高額落札例が多数あります。
掛軸は本紙・裏打ち・表装からなる複合素材であるため、湿度変化や直射日光、埃に弱い性質があります。展示時は春・秋の適度な室温・湿度(約20℃・50%前後)を保ち、掛けっぱなしを避けて換気を行うことが推奨されます。保管時は風帯を掛けずに巻き取り、適切な収納箱(桐箱など)に入れ、虫害やカビを防ぎます。張り替えや修復は専門の表具師に依頼することが望ましいです。
掛軸「紫式部」は、日本文学と絵画が融合した芸術的価値の高い茶室床飾り・書斎飾りとして知られ、真贋鑑定や保存管理の難易度が高い骨董品です。作者や時代背景、表装の素材と技法を正確に見極めることで、美術工芸品としての価値を的確に評価できます。購入や売却を検討する際は、信頼できる鑑定士や専門店へ相談し、来歴や修復履歴を確認したうえで選定することをおすすめします。
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