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銅器「のったり」とは、厚手の銅板を用いて大胆に叩き出し、重厚で丸みを帯びたフォルムを特徴とする工芸技法です。堅牢な銅の質感を活かしつつ、柔らかな曲線を描くことから「のったり」(懐深く落ち着いた佇まい)と称され、茶道具や花入れ、香炉などの作品に用いられます。
作家物とは、伝統工芸士や現代の金工 作家が手仕事で一点ずつ制作し、裏面や底部に作家印や銘が刻まれた作品を指します。銅器「のったり」の作家物は、型打ちや鋳造では再現が難しい叩き技術の揺らぎや刀痕が残り、作者の個性と技量が作品全体に宿るため、量産品とは一線を画す高い骨董価値を有します。
主要素材には純銅または銅合金(真鍮調合含む)が選ばれ、厚手の銅板を用います。制作工程では、銅板を火入れで柔らかく加熱し、自在に叩いて形を整えます。その後、酸洗いや薬品処理で素地の不純物を除去し、黒染めや緑青調整を行うことで落ち着いた色調を得ます。
叩き出しは、木槌や金槌、鋼製の打出し槌などを駆使し、銅板に微細な凹凸を付与しながら曲面を形成します。叩き痕の大小や深さ、槌目の間隔がランダムに配置されることで、光が陰影を描き出し、豊かな表情を生み出します。特に「のったり」作品では、浅い槌目を連続して打つことで滑らかな起伏を表現します。
作品表面は、磨き仕上げ、梨地(なしじ)仕上げ、藻刈仕上げなど多彩な手法で仕上げられます。梨地は細かな研ぎ粉を用いて均質なマット肌を作り、藻刈は化学薬品で微細な腐蝕を促すことで自然なテクスチャを生み出します。さらに象嵌や彫金を組み合わせた装飾も見られます。
銅器「のったり」作家物の代表的用途は、花入れや水差し、香炉、茶釜の外装などです。丸胴形や腰の張った鼓形、胴下部が膨らむ瓶形など、用途に応じたフォルムが工夫されます。一対の花入れや三足の香炉台など、複数揃いの意匠品も高い需要を誇ります。
真作を見分けるには、叩き痕の自然な揺らぎ、金槌跡の痕跡、打出しによる銅板の伸び具合を観察します。作家印や刻印の書体・深さ、裏面のロウ付け跡や銅板の合わせ目処理、薬品調整による緑青や黒染めの濃淡も判定材料になります。均一すぎる槌目や化学的均質仕上げは後補品の可能性があります。
銅器「のったり」作家物は、作家の知名度・技術・作品サイズにより価格が大きく変動します。小〜中型の香炉や花入れは数十万~百万円程度が相場、特に著名金工家の大作や一点物の一対揃いは百万円〜数百万円に達します。作家証明書や共箱が揃う完全品は更に高値が期待されます。
銅器は緑青や錆を含む自然な経年変化が味わいですが、過剰な腐蝕は作品を損ねます。保管は湿度50%前後・温度20℃前後の安定環境が理想。埃は馬毛筆で軽く払い、表面の磨き仕上げ面は柔らかな布で乾拭きし、化学薬品や研磨剤は使用しないでください。
間接光を低角度から当てると、叩き痕の凹凸が鮮明に浮かび上がり、銅の温かみと陰影のコントラストが楽しめます。花入れとして使用する際は、草木のシルエットが銅地に映えるよう、シンプルな花材を組み合わせると作品のフォルムが引き立ちます。
銅器「のったり」作家物は、銅の素材感と鍛金技術が融合した総合工芸品です。素材・技法・意匠・作家印・来歴・保存状態を総合的に鑑定し、適切に展示・保管することで、その歴史的・美術的価値を末永く次世代へ継承できます。
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