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濱田庄司(1894–1978)は、イギリスで陶芸を学んだ後、日本民藝運動の旗手として民衆的工芸の復興に取り組みました。1924年に帰国後、益子に窯を築き、釉薬と土の性質を追求。柿釉は、伝統色の温かみと独自の美を追求した釉薬のひとつで、庄司のキャリアにおいて重要な位置を占めています。
柿釉はその名の通り、熟柿のような深いオレンジ〜赤褐色が特徴。鉄分を多く含む釉薬を高温で焼成することで、自然釉のとろりとした垂れや濃淡が生まれ、光を受けると微細な鉄錆の粒子がキラリと輝きます。素地の土色と釉のコントラストが、古風でありながら温もりを感じさせる質感を醸し出します。
柿釉花瓶は、丸みを帯びた胴部から細くのびる口辺へと流れるような造形が多く、手びねりの温かさと均整のとれたプロポーションが魅力です。庄司自らが「土と炎の対話」と称した通り、轆轤(ろくろ)技術に加え、手仕事による微妙な歪みや指跡を残すことで、一点一点に個性が宿ります。
益子の陶土を素地に用い、鉄分調整した柿釉をかけ流し、約1,280℃の還元焼成を行います。還元雰囲気下での焼成は釉中の鉄イオンを還元し、複雑な色幅を生み出す要因です。焼成ムラや釉垂れが美しい表情として評価され、意図せぬ偶然性が作品の個性となります。
真作は、底部に「濱田庄司」印や「益子」の刻印が施されていますが、偽物対策として印章の形状・書体・打ち込みの深さを確認することが重要です。また、柿釉特有の細かな鉄錆の粒子や釉の流れ、素地との色差、底部の土味(どみ)の質感を観察することで、職人の手仕事か量産かを見極められます。
柿釉花瓶は民藝運動ゆかりの作品として国内外で人気が高く、保存状態や大きさ、稀少性により数十万円から百万円超の取引例があります。特に初期作品や海外展覧会出品作は評価が高く、オークションでは予想を上回る高値が付くこともあります。
柿釉花瓶は、日常使いの器という枠を超え、陶芸史と民藝運動の精神を体現する芸術品としてコレクション価値があります。自然釉が偶発的に生む模様は一点ものの風格を備え、空間に佇むだけで独特の存在感を放ちます。
柿釉は鉄分を多く含むため、表面が傷つくと錆びやすくなります。乾燥した布で軽く拭き、急激な温度変化や直射日光を避けること。展示時はクッション材の上に置いて底面への衝撃を防ぎ、定期的に保護用ワックスを薄く塗布すると長期保存に適しています。
濱田庄司の柿釉花瓶は、民藝の理念を形にした傑作として、日本陶芸の重要な章を担います。色調の深み、造形の温かさ、制作技法の確かさが評価され、骨董品市場でも高い人気を誇ります。購入や鑑定を検討する際は、印章・釉調・造形の三点に注目し、信頼できる専門家の意見を仰ぐことをおすすめします。
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